第二幕(14)
文字数 440文字
不思議なものだね。歩くためには影が要る。
光だけではだめなんだ。
光と闇、どちらも必要なんだ。
光は闇の左手
闇は光の右手
わかちがたく結ばれた
愛しあう者たちのごとく
ふたつでひとつ
音楽。次のゲンリーの台詞の間つづく。
今でも僕は、錯覚におちいることがある。
静かな部屋のベッドで眠りにつこうとするとき、ふと、顔の上にテントの布が斜めに張られていて、雪がさらさらと吹きつけてくるような気がするのだ。
寝袋の湿っぽく、まといつく感覚。
エストラヴェンのかすかな寝息。
真冬の大氷原を二人で越えたあの日々、ハッピーだったと言うつもりはない。
僕は空腹で、不安で、緊張していた。
思うようにいかないことの連続だった。
だが、愉[たの]しかった。
今になってわかる。
僕は愉しかったのだ。
音楽、フェードアウト。