第三幕(5)

文字数 354文字

あの吹雪はほんとに死ぬんじゃないかと思った。ひょっとすると僕はもう死んでるんじゃないかとさえ思った。

(笑っている)

そうだ、思い出した――前に君と、地獄の話をしたことがあったよね。

僕らの地獄では、みんなぐらぐら煮立ったお釜にぶち込まれるんだけど、君たちの地獄では、ひとりぼっちで吹雪のなかを永遠に歩かされるんだって。

ああ、それは地獄でも最悪の所だね。自殺者だけが行く特別の地獄だよ。

正確には、歩くんじゃなくて、凍傷で手足がやられてホフク前進するんだ。

うわ、ほんと最悪。

二人、笑う。
どうして自殺は、そんなにいけないことなの?

どうしてだろうね。

たぶん、私たちのこの世界では、生きていくこと自体が過酷だから、自殺者は、そこから逃げ出そうとする卑怯者だと……みなされるんだろう……(ふいに声をつまらせる)

セレム?
沈黙。
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登場人物紹介

ゲンリー・アイ

地球出身。惑星同盟《エキュメン》の特使。惑星《冬》ことゲセンに単身降り立ち、カーハイド帝国の皇帝に開国をうながす。長身。性格は誠実で直情的。推定される容貌はアフリカ系。男性。

セレム・ハース・レム・イル・エストラヴェン


ゲセン出身。帝国カーハイドにおける《王の耳》(宰相に相当する最高実力者)。ゲンリーの使命の重要性をただ一人理解する。やや小柄(ゲセン人の平均的体躯)。性格は慎重かつ大胆。推定される容貌はアジアあるいはエスキモー系。中性(両性具有)。

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