第一幕(11)

文字数 416文字

高性能の小型ストーブで、カディクのおかゆが煮えた。なつかしい地球の焼き栗のような味がして、あつあつだった。体も心もぽっかぽかだ。

ゲセンで食べたいちばんおいしいものは、いつもあなたといっしょに食べてますね、エストラヴェン。
(ふっと笑う)私に招かれた、最後の晩餐も?

あれだっておいしかった。

あなたは――(ためらって)祖国を、恨んでますか?

(淡々と)国を恨むとか、愛するとか――
そういう「芸当」は、私は苦手なのですよ。

私が知っているのは、一人ひとりの人だ。町並みや、丘や、川や、岩だ。
山あいの畑の斜面に落ちていく夕陽だ。

それに境界線を引き、こちら側と向こう側で愛したり愛さなかったり、
そういったことに、何の意味があるのだろう。

(とまどって)そういう、ものかなあ?
もっとも、この地上に、良い政府というものが存在するのであれば、そのために働くのは、大いなる喜びですね。

(いきおいこんで)それは、僕も、そう思います。(茶碗からかゆをかきこむ)

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登場人物紹介

ゲンリー・アイ

地球出身。惑星同盟《エキュメン》の特使。惑星《冬》ことゲセンに単身降り立ち、カーハイド帝国の皇帝に開国をうながす。長身。性格は誠実で直情的。推定される容貌はアフリカ系。男性。

セレム・ハース・レム・イル・エストラヴェン


ゲセン出身。帝国カーハイドにおける《王の耳》(宰相に相当する最高実力者)。ゲンリーの使命の重要性をただ一人理解する。やや小柄(ゲセン人の平均的体躯)。性格は慎重かつ大胆。推定される容貌はアジアあるいはエスキモー系。中性(両性具有)。

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