第58話 起きない姫と寝れない姫

文字数 1,276文字

「大丈夫だよ! 博士もきっと天国で見守ってくれてるよ!」

「そうだぜ。博士が俺たちに(たく)したんだ。危険すぎることを(たく)すはずがない……そう願いたい」
 そう言いつつ、アーセからの「後を追われてる」という助言が頭をよぎった。 

「でも、なんだかワクワクするね!」メロンは目を輝かせて言った。
「最悪、俺が捕まってもいいけど、お前たちに迷惑をかけられないからな」

 これまで11区から外に出たことがなかった。生涯に一度くらい他の区にも行ってみたいという欲求はあった。

 だが、博士がいなくなった今、この世界に対する興味は薄れていた。世界で生きている意味はメロンとオータムがいるからだ。2人がいなければ、この世界に興味なんて何もない。正直、他の事なんてどうでもいいと思ってさえいた。

 この世界がどうなろうと気にしなかった。ただし、旅の道中で出会ったアンコやフィガロやアーセと接することで、その意識も少しづつ変わり始めていた。彼らが皆、幸せに暮らせるようになればと思うようになっていた。

「でも、もし私たちが捕まっても、先に進んでよね。でも、素敵だよね! Game世界の人達って!」

「どこが素敵なんだよ?」

「だって、私たちは余程(よほど)のことがない限り、他地区にさえいけないのに、彼らは自由に200か国も()()できるんだよ。きっと色んな発見があったんだろうね」
 メロンも俺と同じようなことを思っていた。

 外の景色を眺めていると、アンコが帰ってきた。時刻はまだ昼過ぎだった。この後、町をみんなで散策する予定だったが、ソファーを見るとメロンが眠っていた。その為、俺たちは一度、自分の部屋に戻ることにした。

 その後、外で晩ご飯を食べる予定だったが、メロンが起きないため、各部屋で食事をすることになった。

 部屋食では、俺はステーキ定食を、オータムはお寿司を食べていた。これも全て無料で、一部の人が幸せと言っている意味を身に染みて感じていた。

「あの時、オズワルトのことを質問すべきだったかな?」
 オータムは素手でお寿司を食べていた。

「ハーヴェイのことかい? 聞かなくて正解だよ。ハーヴェイはフィガロ達、反乱を計画していることを知っていた。もし、あの時僕たちがオズワルトについて質問していたら、彼が警戒して、この美味しいお寿司が食べれなかったかもしれないよ」
 オータムは冗談で言っているかと思ったが、真剣な表情をしていた。

 晩飯を食べ終えた俺たちは、就寝(しゅうしん)することにした。

 しかし、ベッドに入っても眠れなかった。博士が俺たちに(たく)したものが何なのか、気になって仕方がなかった。

 結局、ベッドでゴロゴロと過ごしていた。オータムは隣でぐっすりと眠っていた。俺は無理に寝ることもないと思い、ホテルの玄関にある喫煙所に向かうことにした。オータムを起こさないように静かに部屋を出て、エレベーターに向かった。

 古いエレベーターは不気味(ぶきみ)な音をたてて閉まろうとした時、エレベーターのドアが突然止まった。再び不気味な音と共に、ドアが開き始めた。開いた先にはアンコが立っていた。

「フィンさんも……眠れないんですか?」
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