第65話  山小屋③冷たいおにぎり

文字数 1,342文字

目の前に現れたのは、アンコだった。
「大丈夫だったのかい?」

 驚いて、握っていたおにぎりを地面に落とした。俺はアンコに駆け寄り肩をさすった。アンコは恐怖からなのか(ふる)えていた。

「メロンは一緒じゃないのか?」
「……メロンちゃんが助けてくれたんです!」
 アンコはその場に立ち尽くしたまま泣いていた。そして、少し落ち着いた後、あの時の状況を教えてくれた。

 メロンとアンコが逃げた先には非常階段があり、その階段を下った。階段を降りていくと、物影があり、隠れるようメロンに指示された。メロンは囮となり、階段を降りたそうだ。そこで恐らく、スーツの男に捕まったということだ。


「……くっそ! やっぱり捕まったのか」
 手に持っていたおにぎりを握りつぶしてしまっていた。
 アンコは泣きながら説明してくれた。
「アンコが悪いんじゃない。俺たちにも非があったし、悪いのはスーツの男だぜ!」

「……実は原因が分かったんです」
「原因?」
 少し落ち着いたアンコは話しだした。
「私のペンダントに発信機が付いていたんです」

「工場の時かよ?」
「いえ、もっと前だと思います。実は私……王の妹なんです!」

「……ん?」

 突然、アンコが発した言葉の意味が分からなかった。こんな時に変な冗談は止めてくれよと思った。だが、アンコの顔は嘘をついているようには見えなかった。
「私は王の妹です」


 もう一度聞いても、ピンとこなかった。オータムも話を聞きながら、今までのアンコの言動と行動を思い返しているようだった。たしかに良い家の育ちである事は行動や発言を聞いて、分かっていた。

 一番引っかかるのは、囚人が収監(しゃうかん)されていた造幣局にアンコがいたことだ。

 もちろん、造幣局に王の妹がいるはずがない。そこを解決しないと納得はできなかった。オータムもそう考えていたようで質問をした。


「でも、造幣局にいたよね」
「それは……兄が私の命を助けるために」
「どういうこと?」
「実は兄も命を狙われていたんです!そして、兄は私を遠ざけようとしてあそこに送ったんです」

「というと?」
 アンコが指す兄とは、王だ。

「確かに私の教授は国に対して、都合の悪い論文を発表しました。それに乗じて私と国の護衛数名を造幣局に送り込んだんです」

 信じるには難しい話だが辻褄(つじつま)は合っていた。
「だれに狙われているんだい?」

 オータムは一通り話を聞こうと思っているようだ。たしかに今までの旅の中でも感じたが、王の命を狙っている人は多いだろうと感じていた。少なくともフィガロたちはその中に入る。

「オズワルトです」
「……オズワルト!」
 オズワルトは国の中の組織だと思っていた俺は驚いた。
「どういうことだい? オズワルトは国の一部ではないのかい……どうやって発信機を見つけたんだい?」
 アンコは徐々に落ち着きを取り戻しつつある。


「実はさっき助けてくれた人が教えてくれて、電磁波で無効化させてくれたのです」
「助けてくれた人がいるのかい?」

「はい! あれ……名前が出てこない……」
「思い出せ! 頑張れよ!」
 両拳を握り、アンコに力を送った。
「あ、思い出しました。マコさんです!」

「え。マコだと! アーセのとこのかよ!」
「そうです」
「どういうことだい? 何でマコがこんなところに来ている?」
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