第59話  アンコの秘密

文字数 1,007文字

 アンコは照れくさそうに髪をいじり、「気晴(きば)らしに少し外を歩こうと思いまして」とエレベーターに乗り込んだ。

 それまで2人きりで話す機会はなかった。疑問に思っていたことををアンコにぶつけることにした。

「アンコはなぜ俺たちに力を貸してくれているんだ?」
 確認しておきたかった。決してアンコに付いてきて欲しくないという訳ではない。むしろ、感謝している。

 メロンが普段よりもおとなしいのは、アンコを妹のようにみて、責任を感じているように思う。アンコを守らなければならないという意識が芽生(めば)えていた。

「それは……(あと)で説明した方がいいかもしれません。フィンさんたちには嘘をつきたくないから」
アンコはうつむきながら、答えた。予想外の返答に一瞬言葉を失った。エレベーター内では気まずい空気が流れたが、すぐにチンと音が鳴りエレベーターが1階に着いたことを知らせた。

「分かったよ。落ち着いたら、教えてくれよな!」
 アンコに笑顔で回答した。嘘をつきたくないと言う言葉が心に響いた。それを聞いたアンコもにっこりと「はい」と答えた。

 俺たちは夜の街を歩いた。町には楽しそうに遊ぶ学生たちが溢れており、何もかもを忘れて楽しんでいるようだった。アンコはその学生らを()けながら、川沿いの橋に案内してくれた。

 川は色とりどりのライトで飾られ、幻想的(げんそうてき)な風景を作り出していた。

「学生の頃って楽しいですよね。辛い時もありますけど、振り返ってみるとあの時に戻りたいなって思います」
 アンコはライトに照らされ、一段と神秘的に見えた。

「ああ、最高に楽しかった。バカばかりしても怒られないし、嫌なら逃げ出すこともできた。自由な考え方をすることができた」
これから労働区で働くことを考えると憂鬱(ゆううつ)でならなかった。

「これからも自由でいたい。時間、思考、誰にも制限されたくないです。だって、一度きりの自分の人生だから。これは私の人生」
アンコは力強く言い切った。

アンコは川に向かって叫んでいた。
 「人生は私のもの!」

 川沿いで飲んでいた若者たちはこちらを見て笑っていた。俺も少し恥ずかしくなったが、アンコは全く気にしていないようだった。むしろ何かを吐き出してすっきりしたように見えた。

「アンコって、面白い奴だな」
「そうですか? すっきりしました! ホテルに戻りましょう!」

 ホテルに到着し、お互いに部屋に戻った。部屋に入ると、寝息を立ててオータムは熟睡(じゅくすい)していた。
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