第1話 博士 不可解な死

文字数 2,065文字

「起きてよフィン! 大変だよ」

 早朝、ドアを叩く音。どこからか聞こえてくる声が頭の中に響いた。
「眠みいよ。今、何時だよ?」

 聞き覚えのある声で目が覚める。体中にギシギシと痛みが走った。昨日、3人の若い男に囲まれて、返り討ちにした。その代償(だいしょう)として、体のそこら中が痛く自由に動かない。

 ただ、次の瞬間にはカギをかけていた木のドアを蹴とばす音が聞こえ飛び起きた。
 昨日の3人から復讐(ふくしゅう)に来られたかと脳裏(のうり)をよぎったが、先程の声を思い出し、大丈夫かと安堵(あんど)した。


「大変だよ。博士が倒れたんだって!」

 血相(けっそう)を変えたメロンがうっすら目に涙を浮かべながら、俺に飛びついてきた。勢いよくベッドに走ってきて勢い余ってダイブした為、受け止めきれずにせっかく体を起こしたのに、また寝転んでしまった。

 ベッドのきしむ音が聞こえる。それと同時に再び痛みが走り、声にならない声を出し、うごめいた。

「え!……なんで!」

 ドアがいとも簡単に()とばされた事実と、博士が倒れたと伝えられた驚きで状況把握ができず、頭は追いつかない。

心臓発作(しんぞうほっさ)で博士倒れたんだって。早く病院にいこうよ」
 俺の(いた)んだ体をベッドに押し込んだ反動を利用して、メロンはもう玄関(げんかん)に向かって走った。


「ちょっと待ってくれよ。どこの病院?」
 急いで向かわなければならないと判断し、近くにあった帽子を被った。よろつきながら玄関に歩き出した。

「え! ……分からない。さっき聞いたけど、忘れちゃった!」
 メロンは分かりやすくパニックになっており、 靴を履こうにも全然履けずジタバタしていた。


「カレーナ病院だね」
 聞き覚えのある声が玄関から聞こえ。玄関を見るといつも通り落ち着きはらった様子でオータムが立っていた。

「早く起きて、フィン。博士の状態は一時をあらそうんだ。急ごう」

 2人は俺を残して家を出ていってしまった。追いかけようにも体が思いどおりに動かず 四苦八苦(しくはっく)していたが、なんとか玄関に辿(たど)り着き、いつもの車のカギを置いてる木箱に手を伸ばしたが、見当たらない。

 開いている扉からエンジン音が聞こえた。動き出した車の後部座席の窓が開いた。


「フィン! 早く! おいて行っちゃうよ!」
 病院に向かい道中、無言だった。特に会話もなく、外を見る余裕さえもなく、静かに前だけを向いて病院に向かった。

 途中でオータムが「何かあったら博士の担当医から電話がかかってくる」とだけ独り言のように呟いた。

 真っすぐな道が多く、俺たちはただまっすぐだけを見て、博士の無事を祈った。そこの角を曲がれば病院というところで、オータムの携帯が鳴った。

 ただ、電話を取るそぶりはなく、俺とメロンは一瞬指摘しようとしたが止めた。あいつが何を考えているのか分かったからだ。

 病院に着くと知り合いの医者であるユダが暗い表情で玄関に立っていて「こっちだ」と手招きしていた。車を病院玄関につけ、俺とメロンは降りた。

 俺たちは走って玄関を通りすぎようとしたところ、大柄なスーツ服の男とぶつかった。ぶつかった男の後ろにも何人か同じ格好をして道を塞いでいるようにさえ思えた。

 男たちは避ける素振(そぶ)りもなく、横に広がり邪魔(じゃま)だったので、ぶつかりながら前に進んだ。メロンは器用にすり抜けていく。
 
 ユダはこの病室だと指をさした。だが、ユダの表情を見て博士の状態を悟った。

「フィン……残念だが」

「え……」


 俺は茫然(ぼうぜん)とした。昨日まで元気に話していたクロエ博士に白紙がのせられていた。

「嘘だろ。なんで」
「病院につく頃にはもう……。パソコンの定期メンテナンスにきたカミルが見つけたそうだ」
 うつむきながら、ユダは呟いた。

「博士……嘘だろ。起きろよ」
 横でメロンは今にも倒れてしまいそうになっていたが、病室に遅れて到着したオータムが支えていた。

「事件性はないとスーツの人が言っていたよ」
 ユダはカルテを見ながら、右手に何かを握りしめて教えてくれた。

「さっきの人達かい? てことは警察? 早すぎないかい」
 オータムがメロンを椅子に座らせながら言った。抜け殻のようになったメロンを壁にもたれさせるのは難しそうだ。

「ええ。こんなことは今までなかったよ。しかも警察の制服じゃなくて、スーツ姿だったしね」
 ユダも怪訝(けげん)そうに話し、理解できないようだった。ユダは病室を出ようとした瞬間、メロンの方に近づき、右手に握りしめられていた何かをメロンの手に移した。

 耳元でユダが何かをささやいたように見えた。その瞬間、座っていた椅子から(すべ)り落ち、メロンは床に倒れこんだ。

 ユダはびっくりした表情で支えたがメロンはすぐに起き上がり「ごめん!」と言うと静かにまた椅子に座った。俺は博士が寝ているベッドの近くに寄りそった。

「まじかよ!」
 俺はつい最近の出来事を思い返していた。


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