第63話山小屋①

文字数 745文字

 俺は山小屋の近くにあった木を殴った。
 八つ当たりをしないと気持ちの整理ができない。殴った右の拳から血が地面に流れた。

「今日は待つ以外方法はないよ。外に探しに行ってもメロン達は見つからないよ!」

「なんで言い切れるんだよ。俺は探しに行くぞ!」

「それはやめたほうがいい! 余計に物事をややこしくするな! 僕を信じて!」

 いつも冷静に話すオータムは(めずら)しく大声を出した。俺の胸ぐらを(つか)み、木に押し付けた。幼い頃は度々(たびたび)ケンカをしていた。その頃のことを思い出していた。
 熱くなった俺もオータムを殴ろうとしたが、それをかわして、再び俺を木に押し付けた。

 そこからはもみ合いの喧嘩が始まった。俺が負けるはずはないが、今日のオータムはいつもと違い、気合が入っているように感じる。

 昔ケンカをした時は、メロンに止められた。メロンの「だめだよ」という仲裁(ちゅうさい)の言葉が、喧嘩の終わりを告げる合図(あいず)となっていた。原因はメロンにある事も知らずに。

 年を(かさ)ねるにつれて、自然となくなった。いつの間にか、お互いが大人になったからだろう。

 喧嘩が終わると俺たちは自然と集合場所から離れた。離れたと言ってもメロンを探しに行くというより、この場を離れたかった。


 辺りはだんだんと暗くなってきた。これ以上の探索(たんさく)は危険だ。獣の鳴き声がする。この辺りは野生の動物も多く、個人行動をとらないほうが良い。

「なんでいなくなったんだろ。それに誰に尾行されていたんだ?」
 考えすぎて腹が減り、拠点に戻るしかなかった。戻るといつもの冷静なオータムが小屋の前で待っていた。


「大丈夫? ご飯できているよ」
 普段通りに(せつ)してくるあいつは、大人だなと思っていた。俺は少しその場に居づらく感じていた。

「……大体こういう感じだったよね」
 オータムは話しかけてきた。
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