第62  蝙蝠《こうもり》 図書館②

文字数 1,309文字

「後ろを見てはいけない」とオータムは言った。俺たちは急いで階段を駆け下りた。
「国のやつか? 悪いことしたか?」
 たしかに博士からの手紙を受け取ったり、アンコを造幣局から誘ったり、ハッカーのカミルに国をハッキングしてもらったりと、思い当たる節はいくつもある。

「よし。走れ!」
 後方から聞こえてくる足音は明らかに複数人のもので、確実に近づいてきていた。後ろを振り返った瞬間、博士の病院ですれ違ったスーツの男達だと分かった。その黒いスーツが深い闇のように見え、一層の不気味(ぶきみ)さを感じさせた。

「だめだよ。メロン! アンコ! その方向は行き止まりだ!」
 しかし、行き止まりの方へと、メロンとアンコは誤って進んでしまった。
「フィン! 前に進んで!」
 メロンが叫ぶと、その方向へ走る足音が聞こえた。スーツ男達はこちらではなく、メロンたちの方向へ向かって走り去った。

「だめだ、フィン! 今ここで戻ったら、全員捕まってしまう。そうなったら、すべてが終わるぞ!」
「なんでお前にわかるんだよ! どけ」
 オータムを突き飛ばそうとした瞬間、向こう側からの物音は聞こえなくなった。
 俺はすぐにメロンやアンコの方へ引き返したが、誰もいなかった。オータムの言った通り、その道は行き止まりのはずだ。
 もし捕まったとしても、人はいるはずだ。道の行き止まりまで歩き壁を押すと、そこは非常階段に続いていた。階段は音を反響させるが、聞こえてくるのは俺たちの足音だけだった。

「メロンたちはどこに行ったんだ?」
「待て、フィン! ここは危険だ。一度外に出よう。大丈夫だって!」
 オータムはいつも冷静だ。だけど、それに時折、腹が立つ。
「何が大丈夫なんだよ!」
 俺の頭は混乱し、冷静な心を保つことはできない。 
「言っただろ。まだ指名手配犯になってない。国が捕まえたとしても、人質としての利用価値は高いからね」

「なんでお前はいつも冷静なんだよ!」
「焦っても無意味だろ? それに──」
「……もうやってらんねえよ!」
 何事かと先ほど受付にいた人が様子を見に来たが、俺たちの顔を確認すると、また仕事に戻っていった。

 非常階段で話している為か、俺たちの声は大きく響いた。その後は、この図書館を(すみ)から隅まで探したが、メロンとアンコの姿は見えなかった。

『閉館時間です』

 館内のアナウンスが聞こえた。俺たちは3階の受付に戻った。
「さっき貸金庫から紙袋を受け取った奴を探しているんだ。探してほしいんだが……」

 受付の女性は小声で「はい」と返事をした後、パソコンの前に座った。
 彼女は入退室のデータの記録を調べているようだった。データがヒットしたのか「すでに退出されています」と言った。

「どうやってメロンたちは連れ去られたんだよ?」
「まだ、捕まったと決定したわけじゃないよ。とりあえずここを出よう」
 俺たちは閉館時間が近づいていた為、仕方がなく外に出ることにした。図書館に入る前に決めていた集合場所である山小屋に戻ったが、そこにはメロンたちの姿はなかった。
「くそ! なんでこんな事になったんだよ!」
 
 図書館で受け取った紙袋の中身など、もはやどうでもよくなっていた。
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