第53話  メタ③ 

文字数 905文字

「確か、この建物に住んでいたはずですよ」
 アンコが指さした。その指し示す先には高層ビルがそびえ立っていた。
 
 そのビルはガラス張りで美しく、俺が住んでいる11区には存在しないような建物だった。オータムによれば、ガラス張りの建物はコンクリートよりも軽く、耐震性があるとのことだった。

「でも、いつもテレビに出ていたよね。1区に住んでいるんじゃないんだね!」
 メロンは立ち止まり、上を見上げて建物が何階あるのかを数えていた。

「実はそうなんです。テレビ局は分散されていまして、1区にある本局と大学があるここを含めた、残り4区域にテレビ局があるらしいです!」
 アンコは記憶(きおく)を思い起こす為に、右手で頭をかきながら思い出していた。

「私会ってみたいな!」
「そんな暇ねーぞ!」
「でも。何か情報を知っているかもしれない。テレビや報道も国が管理しているはずだよ」
 オータムは説得するように言った。確かにハーヴェイがオズワルトに関する情報を持っている可能性もあるだろう。オータム自身もハーヴェイに興味を持っているようだった。

「ハーヴェイは昔から物知りだから。きっと食べ物も宿泊先も教えてくれますよ!」
「……分かった。行こうぜ!」

 この世界でテレビは全国民の共通の話題となっていて、視聴率は80%を超えている。ハーヴェイはテレビ界では絶大な人気を誇る。

「確か、ビルの中にも入れたと思うんです」
 アンコは学生証を手に取った。ビルに入ると警備員に止められそうになったが、アンコが大学証を提出すると、すんなりと通行許可をもらった。警備員にハーヴェイのいる場所を尋ねると、彼は仕事が終わって食事に出ているとのことだった。

「残念ですね」
「他にハーヴェイが居そうな場所はないのかよ?」
 アンコは少し考えた後、思いついたように明るい表情になった。

「もしかしたら、この近くの喫茶店にいるかもしれません!」
 アンコが案内するままにビルを出て、右に進んだ。行き交う人達は学生ばかりで、11区で見た若者と違い、目が(かがや)いているように見えた。楽しそうにしている時の人間の目は決まって輝いている。5分ほど歩くと、小さな喫茶店が見えた。

「きっと、ここですよ!」
 
 
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