第8話 過去の気配

文字数 1,051文字

「ちょっと待って! 人の気配(けはい)を感じる……」

 地面の見渡し、オータムは確信めいていた表情だった。

「どうしてそう感じるんだよ?」
「人の足跡が地面に何個もあるし、正面の扉が少し開いているようにみえる!」と答えると周囲を見渡して、どこか隠れる場所はないかと探している。

 俺も見渡すと記念碑(きねんひ)なのか、大きな石が建物の周りにいくつか見える。あそこなら一時的には身を隠すことができそうだ。

 するとメロンは迷わず廃墟(はいきょ)に向かって()け出した。

「早く! おいてくよ!」

 オータムは頭を抱えたがすぐに判断を変え、メロンの方に走り、俺も後を追った。
 何か手がかりがあればいいと思っていたが、脳裏には博士から話を聞いたオズワルトという組織が関係しているのであれば、危険だ。鉢合(はち)わせになると最悪の場合、殺されてしまうだろう。

 そのような気持ちを抱きながら走る。改めてこの廃墟を見ると、国が保有していたであろう立派な建物だったことがわかる。門から建物の入り口まで多少距離があり、全力で走るのは疲れた。


 体力的な疲れもあったが、美術館を出てからずっと心の鼓動(こどう)が聞こえてくる。全身に伝わり、ドクンドクンと心臓の音が聞こえるほど緊張しているのが分かる。普段喧嘩(ふだんけんか)するときはまた全然違った緊張を感じていた。

 (あた)りには草や木が生えており、それが風のせいでささやいているような音が聞こえる。その音さえも今では敏感に反応してしまい、うるさいとさえ思う。


 建物の扉に一番早く着いたメロンは静かに少し開いた扉を静かに開けた。さすがにメロンも慎重にそして、身をかがみ、中に入っていた。その背中を追って、オータムも俺も中に入った。


 中に入ると正面には大きな階段が広がっていた。大きな階段は真ん中で句切(くぎ)られており、左右から2階に上がれるように設計されていた。

 恐らく、上り下りの混雑を避けるように当時考えて作られていたのだろう。見たことがない豪華(ごうか)なデザインだとオータムは感心していた。


 建物内は薄暗く、「昼間に入り込んでよかった」とオータムが言った。たしかに窓から入ってくる光のおかげで歩けているが、夜だったらまともに歩くことはできないだろう。


 1階には当時から展示していたのであろう資料や置物が置かれていた。中には当時使用されていたのだろう財布というお金を入れるものも展示されており、Game世界では必需品(ひつじゅひん)だったようだ。


 貨幣の始まりについて書かれた、かつての資料もあった。だが、この資料は現在の国の現状について書いているのではないかと疑った。
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