第55話  メタ⑤ 

文字数 1,010文字

 ハーヴェイは心配そうに尋ねてきた。
 俺の意識はネギトロ丼に集中していて、注文を終えた後に、ハーヴェイの話が頭に入ってきた。

「本当に大変でしたよ! もうだめかと思いました……」
 アンコは同級生に対しても敬語なのかと不思議に思った。

「ところで、彼らは?」ハーヴェイが尋ねた。
 視線はこちらに向けられ、テレビで見るのと変わらない、人懐っこい笑顔で見てきた。

「彼らに助けてもらいました!」メロンは自慢げにお辞儀(じぎ)をした。
 俺とオータムはアンコを誘拐(ゆうかい)をして、連れてきたなんて言えるわけもなく、小さく会釈(えしゃく)をした。

「へー。……君たちが!? それは驚きだね。反逆(はんぎゃく)の罪で捕らえられた人は、ほとんどがこちらの世界には戻ってこないと聞いていたから、心配していたよ!」
 ハーヴェイは慌ただしく、机の上に置いてあったおしぼりを手に取った。

「ハーヴェイは大丈夫ですか? いつものように笑顔で働いていますか?」
 アンコが尋ねると、ハーヴェイは(うつむ)いた。
「最近になって、国の人からテレビの露出(ろしゅつ)を控えるように言われているんだ!」
「どうしてですか?」
「僕の人気が出すぎて、影響力が大きくなりすぎるのは問題だと言われているんだよ」
 ハーヴェイは憂鬱(ゆううつ)そうだった。

「国にとって、ハーヴェイのように人気が高い人物が国民を動かす力を持つのは、コントロールが効かなくなってしまうと考えたんだろうね」とオータムが言いながら、携帯のカメラをハーヴェイに向けて、写真を撮った。
「僕の生きがいは人々を笑顔にすることなんだ。それをやめさせられるなんて、許せないよ……」
「それでは、これ以上テレビに出ると、国から反逆罪を問われる可能性があるってことなのかい?」

 ハーヴェイは静かに(うなず)いた。

「本当にこの国で起きていることを伝えたいんだ。僕は……」
「本当のこと……ってなんですか?」
「昔のGame世界は自由で、皆が楽しんでいたようだ。その世界に戻そうとする集団が現れているらしい。君たちはどう思う?」
 ハーヴェイが反乱軍の存在を知っているとは驚きだった。国もこの情報を(つか)んでいるに違いない。無用な発言は控えるべきだと考え、目の前にあった水を飲んだ。

「自由で楽しいと分かっているGame世界に戻りたいですか?」
 メロンは不思議そうに質問し、同時に注文していたコーヒーが運ばれてきた。それを自分の前に置いた。

 俺のネギトロ丼も届いたが、ハーヴェイの言葉が気になって、食事どころではなかった。

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