第30話  マーヒー③

文字数 1,316文字

フィドロは大きな(たる)を肩に乗せて、片手でそれを支えながら、歩いていた。男2人でも持つことは困難な重さではあるが、軽々持って歩いている。ただ者ではないのは明らかだ。

「危険な旅だし。あまり人を信頼しないほうがいいんじゃないですか?」
 フィドロは先に歩き出して、その後をついていく。アンコが俺に指摘した。「大丈夫だよなんかあったら、俺がぶっ飛ばしてやるから」と説得した。ただ、さっき俺がぶっ飛ばしたやつよりは体は小さいが、フィドロの方が強敵に思える。


 危機察知能力(ききさっちのうりょく)の高いメロンとオータムを見ても、特に心配している様子がなかったので、俺も信用したというのもある。

 店に向かう道中でメロンは「この町の(いた)る所に私たちの町でもあった照明が置かれているのね」と嫌そうな顔をしていた。俺も同じことを考えていた。

「すごい! 海賊の酒場みたいだね」
「海賊の酒場?」

 メロンが高らかに発した言葉がよく理解できなかった。メロンが言うには、何千年も前に実在した海の泥棒のことらしい。

 一体どこでそんな知識を仕入れてきたのか、メロンの好奇心には感心する。フィドロに案内され中に入ると円卓が数席あり、奥にはカウンターが並べられていた。 円卓は樽が使われており、居心地がいい。

 大柄な男から子供までおり、みんなが楽しそうに飲んでいた。メロンは「想像していたお客さんの層とは違う」と不満を漏らしていた。カウンターの奥には、女性がいた。フィドロの奥さんなのだろうか。

 フィドロは帰ってくるなり、その女性と少し話した後、こちらを指さし、その後に俺たちを店の奥に手招いた。

 フィドロは奥さんを紹介してくれ、俺たちも挨拶をした。奥には個室が数席あり、この席に案内してくれた。メロンとアンコは奥さんと楽しそうに話す。フィドロは「ゆっくりしていけよ」といい、店の奥に消えていった。
 観光客なんて何年ぶりだろうねと奥さんは喜んで受け入れてくれた。

「はいよ。ゆっくりしていきなさいよ」
 この町では観光に来た人を丁重にもてなす事が文化としてあるんだよと教えてくれた。
 俺たちの町では見たことがない肉の塊などを出してくれた。

 メロンは「やっぱりこれよね。イメージ通り!」と喜んで食べていた。以前に博士からGame世界の色々を聞いていたみたいで、これもその一部なのだろう。

 俺には海賊のイメージが思い浮かばなかったので、単に美味しいごちそうだった。食事が終わるころには、一仕事を終えたのだろう肩に白いタオルを巻き、汗をかいたフィドロがやってきた。


「どうだ。美味しかっただろ」
「こんなごちそう初めてです。ありがとうございました」
 アンコが深々と頭を下げたので、俺たちも感謝を込めて頭を下げた。フィドロは照れくさそうに笑った。気にするな、この町は旅人をもてなすと幸運が訪れると言われているんだと奥さんと同じような言葉をかけてくれた。

「ところでお前さんたちは11区からきたんだっけ?」 そう言いながら、奥さんにビール入れてくれとお願いしていた。



「そうだぜ。この間も言ったぜ。……何回言わせんだよ、おっさん」
 横を見るとオータムが先程とは違って警戒し始めていた。

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