第67話 研究所①

文字数 1,280文字

 アーセのいる海に向かう道中(どうちゅう)

 落ち着かない俺は後部座席に座った。オータムに運転を頼み、助手席にアンコが座った。マコとは別の車でアーセのいる20区に向かうことにした。

 ここから最速時間で行くには、12区を通っていくことになる。車で休憩(きゅうけい)をせず目指したとしても、戻る道は1日以上かかる為、途中で1泊して向かう予定だ。

 12区には、アンコが学生時代の時に使っていた研究所があるらしい。そこで宿泊することにした。大学の時と同様に食事も無料で、シャワー室もあると教えてくれた。

 後部座席でずっと考え事をしていた。何を考えればいいのかは分からなかったが、頭の中にはメロンが浮かんでくる。反省しても仕方がない。解決策を考えることにした。

 まずアーセをぶっ飛ばして、知っている情報を洗いざらい聞く。その情報から国に俺一人でも乗り込んでやる。無謀(むぼう)なのはわかるが、やるしかないと真剣に考えていた。

(なつ)かしい。この辺りに研究所があったんですよね」

 アンコが窓の景色を(なが)めていた。考え事をしている間に、研究所に近づいていた。


「何を研究していたんだい?」
「そうですね。簡単に言うと、遺伝子DNAを細胞から取り出し、人工的な操作を加えて、それを利用して……遺伝子工学(いでんしこうがく)にも種類があるんです」
「その施設は今でも中に入る事ができるんだね?」
「はい! 大学証があると入れますよ」

 大学出身というだけで特権があるとは、学生時代にもっと勉強しておけばよかったなと思った。

「今日は何月ですか?」
「たしか10月だったと思うよ」
「10月でしたら、人はほとんどいなんで、気にしなくて大丈夫ですね」

「行こうぜ!」
 マコから電話がかかってきた。マコは近くの宿泊施設に泊まるようだ。


「あ! ここですね!」
 アンコは建物を指差して声をあげた。見ると図書館を小さくした施設のようだが、新築と分かるほど綺麗(きれい)だ。周辺には特に高い建造物はなく、田んぼの中心辺りにポツンと研究所があった。

 異様に広い駐車場を見て、国は無駄遣(むだづか)いをしているなと思わせてくれる。駐車場に止まっている車は、俺たちの車を除けば1台しか止まっていなかった。

「入りますよ!」

 3階建ての建物はとても広く感じる。建物の中に入ると、受付に大学証を照らす場所があり、そこに照合すると中に入る事ができた。

1階には食堂及び仮眠室、シャワー室と書いており、2階、3階が実験室のようだ。

 オータムは、アンコにせっかくだから案内してほしいと頼んでいた。俺はさっさと飯を食って仮眠を取り20区に進みたかった。

 1階には誰も人がいなかった。3階に綺麗なエレベーターで上がると目の前が研究室と書かれた部屋があり、外から中が見えるような透明なアクリル板で作られた大きな窓がいくつもある。

「ここが研究所かい。すごいね」
「あれ! 誰かいるみたいですね」

 まだ中には入っていないが、外から人影(ひとかげ)が見えた。その人影は俺たちが来たのに気づいたのだろうか、コソコソと動いている。隠れているようにも見える。

 アンコは不振がり、(おそ)(おそ)るドアを開けた。そこには見たことがある人がいた。

「……ユダ!」
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