第16話 天才ハッカー

文字数 2,015文字

「お前大学行っているのかよ」

 俺が質問すると後部座席にいるメロンから「アンコよ!」と言葉と鉄拳(てっけん)が飛んできた。

 3001年の大学というと国には、4つしかなく、いずれも優秀な人しか入れない。
 また、大学に行った人は半強制的に国の組織に属するといった話を聞いたことがあった。


「はい。20区の大学にいました」
「そういえば僕の知り合いのカミルもその大学にいたんだけど、知らないかい?」

 カミルといえば、博士の倒れている姿を発見した人物だ。カミルが大学に通っていたことを知らなかったし、興味もなかった。オータムはカミルと連絡取り合っていたとは聞いていたが、まったくその社交性には感心する。

「カミル……さん? 専攻(せんこう)が違うのであれば会わないんですよね。大学が広すぎて。私は遺伝子工学(いでんしこうがく)を専攻していました」


 一通りアンコの話を聞き終わった後、何かを決心したかのようにオータムは車を止め、後部座席のアンコに近づいた。何をするかと思えば、簡易に(しば)っていたロープを外した。

「痛かっただろう。ごめんよ」と気遣(きづか)った。
 アンコは特に気にする様子もなく、「信用してもらえてよかった」と手首にうっすら跡がついたが、すぐ元に戻るだろうと判断したのか、痛がる素振(そぶ)りを示さなかった。

「よしいこうか。時間との勝負だね。すぐに会いに行こう。天才ハッカーのところに!」

 オータムは急いで運転席に戻りハンドルを握って運転を再開した。急発進した為か、甲高いタイヤが地面に(こす)れる音が聞こえた。

「まだ君は自由ではないよ」


 博士の家に向かっていたが、そこから大幅に帰路(きろ)を変えて、小さな一軒家に車を止めた。俺たちに車から降りるように(うなが)し、その家のドアをノックもせずにオータムは入り込んだ。

「久しぶり!」


 家を空けると椅子に座った男よりもディスプレイが展示しているように並べられている画面が目に入った。テレビディスプレイは六台ほどあり、家の照明を消していた為、薄暗かった。メロンは「暗いね」と言い、勝手に家の電気をつけた。

「変わらないな。ノックをしないところ」
 こちらには目もくれず、パソコンの画面とその男は対峙(たいじ)していた。


 オータムいわく彼はカミル、天才ハッカー。そう言われたカミルは、「嬉しくないよ。天才なんて言葉。俺は好きでやっているだけだからね」と清々(すがすが)しく答えていた。


 ハッカーと言えば、部屋を散らかして、部屋は異臭が(ただよ)っているというイメージを勝手に持っていたが、カミルの家はきれいに整理整頓(せいりせいとん)されており、部屋からはいい匂いがしていた。

「なにしているんだ、君たち。心配していたぞ」
「心配? 俺たちも心配していたんだぜ」

 カミルは俺たちに対して何を心配しているのかは、分からなかったが、オータムは理解したようだった。

「もう手遅れかい?」 
「まだ間に合うよ。仕事を依頼するか、僕に?」

 綺麗(きれい)な髪をかき分けクールに聞いてきた。オータムの後ろにアンコがいるのに気付いたのか、恥ずかしそうに会釈(えしゃく)していた。その後、俺の顔を見て現状を理解していない状況にため息をついていた。

「仕方がないな」と言いながら、パソコンの画面に俺たちの顔写真を写した。画面には大きく「指定手配」と書かれていた。


「ネットで指名手配になるぞ。君たち」
「嘘?」

 メロンは興味深々といった面持ちでカミルの話を聞き出した。

「まだ正式発表はされていないが……」
  残念そうにカミルはパソコンをいじりながら言った。

「どういう意味だい?」
「まだ情報は警察で止まっている。恐らくこれから国の中枢機関(ちゅうすうきかん)である中央区に情報を流すところだろう。まだ情報はそこまで達していないね」

「中央区? もしかしてスーツを着ている連中かい? それとも傘のタトゥーが入っている連中?」

 オータムは博士が倒れた病院にいた連中の事も連想していたようだ。

「さあ。知らないよ」

 メロンがパソコンを触ろうとすると「あまり触らないでね。人間と違って繊細(せんさい)なんでね」と注意した為、メロンの(ほほ)(ふく)れていた。

「仕事って。君は国の組織の一員なのかい?」
「違うよ。僕は誰にも属さない昔からの知人や知人の紹介だけ仕事を受けることにしてる。案外この監視されているような世界じゃ危険だからね。人間の武器は信頼だよ。あとは……」
「報酬しだいだな?」
「そ!」

 オータムとカミルはコソコソ話を始めた。俺には聞こえても良いだろうと判断したのか。俺を壁に使い、後ろの女2人からカミルは身を隠していた。


「そこにいる彼女の連絡先を教えてくれ」 アンコの事を指さしていた。
「ん。それだけかい?」
「それだけって君ね」
「わかった。交渉しよう」


 コソコソ話をするくらいの事ではないし、直接本人言えばいいのではないだろうかと。しかもアンコには聞こえている。

「……というわけだ。アンコいいかな?」
「いいですよ。携帯電話取り上げられて持ってないですけど」
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