第56話  メタ⑥震えるコーヒー

文字数 932文字

「考えてもくれよ。Game世界で人々は楽しんでいたと言うが、実際には少数派だっただろう。この世界でも同じだ。世界がどう変わろうとも、基本的には一緒だと思うんだよ」
 ハーヴェイはそう言い放つと、手に持ったコーヒーカップが微かに(ふる)えた。

「何か困ったことでも?」
 アンコは心配そうに問いかけた。
「急に話を振って、悪かったね。ただ、言いたいことが溜まっていて、つい……。この世界では、Game世界に戻そうとしている勢力があるって知ってる?」

 ハーヴェイはその問いを投げかけた後、新聞を手放し、紙を強く握りしめた。新聞紙はまるで苦痛の声を上げるように、クシャクシャと音を立てた。
 俺が口にしたネギトロ丼は、ハーヴェイからの問いかけに驚き、思わず喉に詰まってしまった。

「そんな勢力が存在するのかい?」
 オータムは質問された内容には答えず、代わりにハーヴェイに問い返した。フィガロたちの情報を打ち明けると、その結果としてフィガロに危険が及ぶことを危惧していたのだろう。

「僕がいるテレビ局には、この世界の情報が全て集まる。良い事も悪いこともね」
 ハーヴェイの話を聞いていくうちに、オズワルトのことを尋ねるべきだと思った。しかし、
その時点で俺の頭の中はネギトロ丼がもうすぐなくなるという事実に哀愁(あいしゅう)を感じており、思考が回らなかった。

 ハーヴェイはそっとカップをテーブルに戻した。出会った時よりは少し顔色が良くなったようにも見える。()まった思いを吐き出したら、気持ちが楽になったのだろう。

「久しぶりに会ったのにこんな重い話をして申し訳ない。食事は僕が出すから、遠慮せずに好きなものを食べてよ」
 ハーヴェイはそう言って、くつろいだ様子で新聞紙を背中に当て、両手を広げて見せた。
 その言葉を聞いたアンコとメロンは同時に、奥さんにパフェを注文した。メロンに食べすぎだと注意されていたが、話したことなど忘れてしまっていた。

 それからしばらくは、皆で楽しく談笑しながら食事を終えた。ハーヴェイの話術は独特で、ラジオを聞いているような感覚にさせた。特に面白いというわけではないが、話に引き込まれてしまった。

 アンコはパフェを食べ終わると、スプーンをそっとテーブルに置いた。
「さあ。いきましょうか!」
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