第48話  嵐の去った後

文字数 770文字

 嵐が過ぎた早朝、晴天が広がっていた。湿気もなくなり、爽やかな朝だった。昨日までの不穏な雰囲気はなくなり、海猫(うみねこ)やカモメものんびりとしている。

 喫煙所に置かれた灰皿は釣り掘の近くに横たわり、停泊(ていはく)していた船は少し流されていた。人間にはできない影響を自然が与えていた。

「おはよう! もう出発するのか?」
 喫煙所でタバコを吸っていると、アーセがパジャマ姿で眠そうに近づいてきた。灰皿を元の場所に戻そうとしていた。
「そうだな。嵐のせいで予定がくるってしまったからな」

「……アーセ。なんか隠しているだろ!」
「……オータムに言われたんだろ。お前じゃ気づかないだろうからな」

 なぜかアーセはそれを予測していたようで、自分の嘘がバレたことに満足そうだった。どうやらわざと間違えたように見せているようだ。何か意味があるのかもしれない。

「バレる嘘をつく必要があるのかよ」
「嘘じゃないさ。遠いが川も流れているのだから」 
 アーセは全く悪びれた様子もなく、タバコをふかしてながら海の地平線を見つめていた。

「まあ、いいぜ。でも、お前は冗談でも嘘が嫌いだっただろ?……まあ、いいか」
 そう言った俺は、タバコの火を消しながら、思い出していた。昔のアーセが嘘をつくときは、自分の為にではなく、仲間の為だ。あまり詮索(せんさく)するのは良くないのだろう。

「なんだよ。理由を聞かないのかよ?」
 アーセは拍子抜(ひょうしぬ)けた表情をしていた。(おそ)らく、色々と言い訳を考えていたのだろう。残念な表情をしながら、短めの髪の毛をかきあげていた。

 出発の準備が整い、メロンとアンコは眠たそうに目をこすりながら、感謝を伝えて深々とお辞儀(じぎ)をしていた。オータムは何やらアーセと話をしていた。
「図書館から帰ったらここに戻ってこい。絶対。何かあったら、俺に電話してこい!」


 アーセはマコと釣り堀の方に消えていった。
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