第2話 Game世界(2023年)①
文字数 1,954文字
「フィン、聞いておるのか!」
クロエ博士は、器用に淹 れたてのコーヒーを右手で持ちながら叫んだ。博士はいつもコーヒーをお茶代わりに飲んでいる。
博士は国から研究費を貰 って仕事をしている。何の研究をしているのかを何度も問 いかけるが、かたくなに教えてくれない。
博士は家で流れていたテレビの電源を消した。この国では国営放送1局だけが放送されていて、テレビに映し出された人たちは、討論 をしていた。
いつも眼鏡 をかけた男だけが楽しそうに話をしている。他のコメンテーターは笑わずに原稿 を読んでいるだけ。そのせいだろうか、眼鏡男は国民のスターのように人気がある。
「聞いているって。1000年前の世界の話だろ」
何回も聞いている話なので、改めて聞く話ではない。でも、博士は話をやめない。
「西暦2000年代のGame世界では人が60億人以上もいて、国は200カ国を超えて、貨幣もあったんだ。だがな、今では人口が1億人程度しかいないし、国も1つだ」
悠々 と知識をひけらかす博士を見ながら、心の中では何度も聞いた話であるし、はるか昔の話である事にあまり興味を持てなかった。
ただいつもの会話では、ここからは博士の推論 が始まりきっと世界大戦が起きて……などと話が続く。
博士はニヤリと笑い、持っていたコーヒーを高らかに掲 げ。
「今回は違うぞ、フィン! ここから先の話を仕入れてきたんだ」
さらにコーヒーを持ったまま立ち上がった。ここから話が長くなるなと思った俺は博士に提案をした。
「博士、この後メロンとオータムが家にくるからさ。その時まで話は取っといてくれよ」
博士はすぐにでも話したそうにしていたが、後から来る2人にも話せると思ったのか、気持ちを抑 えるように手に持っていたコーヒーを静かに机に置いた。
「ごめんください!」
家に入るなり、メロンが元気よく叫んだ。博士はびっくりしたのか、体が宙 に浮いたように見えた。その後は、落ち着いて嬉しそうにコーヒーを再び淹れるため、電気ポットのスイッチを押した。
「いらっしゃい! メロンちゃん、オータム! よく来てくれたね」
僕には目もくれず、机の上を片付け、椅子 を引いて招 き入れた。
「ゆっくりしていってくれ」と2人に言うと、電気ポットが早く沸 かないかとソワソワしていた。
使い古されたポットが湯を沸いた合図の音がなると、そそくさと自分のコーヒーを注 ぎ、2人に何が飲みたいと聞いていた。
メロンとオータムはオレンジジュースを注文したので、「冷蔵庫から勝手に取ってくれ」と言った。博士はそう言うと木彫 りのイスにゆっくりと腰掛 けた。
「クロエ博士、また色々話してよ!」
メロンが博士の冷蔵庫から取ったオレンジジュースの缶を片手に持ちながら、すごい勢 いで話をせがんだ。メロンのきれいな長い髪がなびいた。
「よし! ちょっと待っておくれよ!」
博士はまた驚き一瞬浮いたが、手を胸にやるなり、真剣なまなざしで僕たちを見た。
「今から言う話は他の人には言ってはいけないよ。約束できるかな」
博士の表情は今まで僕にも見せたことのない怖い表情に変わり、まっすぐなまなざしを向けていった。
いつもは淡々としている博士だけに興奮気味 に話し出した博士の雰囲気 に押され、メロンだけでなく、俺たちも唾 を飲んだ。3人は無言で深く頷 いた。
「よしわかった。絶対だ! あれは1000年前。国が200ほどあったのは知っているだろうか」
博士は遠くの方を見ながら語り出した。
「なぜ人が60億人から1億人減ってしまったのか。世界大戦つまり戦争が原因ではなかった。発端 はウイルスだった。ただ、驚くべきはウイルスが直接的な原因ではなかった」
人差し指を1本立てながら、突拍子 もない事を言い出した。何を言っているのかと博士の顔を見たが冗談で言っている様子ではなかった。メロンやオータムは静かに相槌 を打っていた。
「当時の医療は今と変わらず高い医療技術を持っていた。Game世界で流行っていた病も一年もあればワクチンいわば抗ウイルス剤を作り上げた」
メロンは、オレンジジュースを飲みながら聞いており、どこか恋愛の悩み事を聞いているような感じにも見えた。博士の話は続く。
「そこにとある組織がそのワクチンに目を付けた。その組織を通称オズワルトというそうだ。オズワルトは、ワクチンに何かを混入したそうだ。Game世界の中で各国がワクチンを半 ば強制的に接種する動きになることを予想しておったそうだな。ワクチンを細工 して、人間の生死をコントロールできるようにしたんだ」
「てことは、そのウイルスを流行 らせたのはそのオズワルトのかい? そんな事が1000年前にできたんだね。恐 ろしい」
クロエ博士は、器用に
博士は国から研究費を
博士は家で流れていたテレビの電源を消した。この国では国営放送1局だけが放送されていて、テレビに映し出された人たちは、
いつも
「聞いているって。1000年前の世界の話だろ」
何回も聞いている話なので、改めて聞く話ではない。でも、博士は話をやめない。
「西暦2000年代のGame世界では人が60億人以上もいて、国は200カ国を超えて、貨幣もあったんだ。だがな、今では人口が1億人程度しかいないし、国も1つだ」
ただいつもの会話では、ここからは博士の
博士はニヤリと笑い、持っていたコーヒーを高らかに
「今回は違うぞ、フィン! ここから先の話を仕入れてきたんだ」
さらにコーヒーを持ったまま立ち上がった。ここから話が長くなるなと思った俺は博士に提案をした。
「博士、この後メロンとオータムが家にくるからさ。その時まで話は取っといてくれよ」
博士はすぐにでも話したそうにしていたが、後から来る2人にも話せると思ったのか、気持ちを
「ごめんください!」
家に入るなり、メロンが元気よく叫んだ。博士はびっくりしたのか、体が
「いらっしゃい! メロンちゃん、オータム! よく来てくれたね」
僕には目もくれず、机の上を片付け、
「ゆっくりしていってくれ」と2人に言うと、電気ポットが早く
使い古されたポットが湯を沸いた合図の音がなると、そそくさと自分のコーヒーを
メロンとオータムはオレンジジュースを注文したので、「冷蔵庫から勝手に取ってくれ」と言った。博士はそう言うと
「クロエ博士、また色々話してよ!」
メロンが博士の冷蔵庫から取ったオレンジジュースの缶を片手に持ちながら、すごい
「よし! ちょっと待っておくれよ!」
博士はまた驚き一瞬浮いたが、手を胸にやるなり、真剣なまなざしで僕たちを見た。
「今から言う話は他の人には言ってはいけないよ。約束できるかな」
博士の表情は今まで僕にも見せたことのない怖い表情に変わり、まっすぐなまなざしを向けていった。
いつもは淡々としている博士だけに
「よしわかった。絶対だ! あれは1000年前。国が200ほどあったのは知っているだろうか」
博士は遠くの方を見ながら語り出した。
「なぜ人が60億人から1億人減ってしまったのか。世界大戦つまり戦争が原因ではなかった。
人差し指を1本立てながら、
「当時の医療は今と変わらず高い医療技術を持っていた。Game世界で流行っていた病も一年もあればワクチンいわば抗ウイルス剤を作り上げた」
メロンは、オレンジジュースを飲みながら聞いており、どこか恋愛の悩み事を聞いているような感じにも見えた。博士の話は続く。
「そこにとある組織がそのワクチンに目を付けた。その組織を通称オズワルトというそうだ。オズワルトは、ワクチンに何かを混入したそうだ。Game世界の中で各国がワクチンを
「てことは、そのウイルスを