第37話 武満徹と石川セリ
文字数 2,013文字
武満徹の歌ものは、所謂クラシックの合唱で唱われるべき歌ではないと、常々思っていた。
作曲者本人がどう考えていたかはわからないが、『翼・武満徹ポップ・ソングス~石川セリ』のライナーを見ると
「以前、偶々、石川セリの昔のアルバムを聴いて、自分が少しずつ、機にふれて書き溜めて来た小さな歌を、彼女にうたってもらって、なにか楽しいアルバムをつくってみたいな、と空想したことがあった。」
とあるので、それまでの再生のされ方に決して及第の満足が得られていなかったのかもしれないと、そんな解釈もできるのだが、その武満徹の空想が見事的を射ていたことは、このアルバムの1曲目のボーカルが出てきた瞬間にわかる。
『小さな空』の石川セリのボーカルは、この歌に対して完璧だ。声の質といい、歌い回しといい、'61年に書かれたこの歌が、まるで石川セリの為に書き下ろされたような憂いを持っている。ジェイク・コンセプションのニュー・ミュージックしたサックスもいい。
マイナーな暗さをたたえた『三月のうた』や『死んだ男の残したものは』や、バラード『島へ』、『翼』、小林靖宏のアコーディオンが活きている『ワルツ』、『雪』、アレンジの妙もあってとても'61年の作品とは思えない新しい感覚の『恋のかくれんぼ』等々、まったく聴くに厭きないアルバムだが、その中でも珠玉 の出来映えなのが『明日ハ晴レカナ曇リカナ』だ。
この曲が作られたのは'92年とある。
武満徹が癌で亡くなったのが'96年。自分の死を知って書いた歌かどうかは寡聞にして定かではないが、もしそうだとしたら、こんなに切ない歌はほかにない。
明るくお茶目なアレンジを施したコシミハルも素晴らしい。このチャーミングなキーボードに石川セリの声が乗ったとき、人間にはどうしようもないものがあるってことを、つくづく感じさせられる。
金八先生第5シリーズで、兼末健次郎が警察に逮捕・連行されていく場面でAmazing Graceの後に流れた曲。
珠玉のメロディー、健次郎を思い出す……等コメントがたくさん。
本名は『あきみ』と読むが、吉田拓郎を意識したレコード会社が『拓郎(たくろう)のように陽水(ようすい)にしよう』と言い出し、本人は『そうですか』と受け入れた。
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