第7話 ビージーズと『小さな恋のメロディ』
文字数 2,306文字
「インスパイア(inspire)」とは、尊敬する作品に影響を受けて同じテーマの作品を作ることです。動詞インスパイアの名詞形が「インスピレーション(inspiration)」です。
インスパイアは「思想などを吹き込む」という意味を持つため、あるアーティストの作品に感銘を受けて制作された作品を「インスパイアされた」作品と呼ぶこともあります。
後に映画化もされたブロードウェイミュージカル『ウエスト・サイド物語』がシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』にインスパイアされた作品であることをご存じの方も多いでしょう。
一方、「オマージュ(hommage)」はフランス語で「敬意」「賞賛」を意味し、英語の「リスペクト(respect)」と同じ使い方をします。
ここで挙げた「インスパイア」「オマージュ」「リスペクト」はすべて尊敬や賞賛の念が込められていて、元の作品をそのまま流用することなく、独自の表現を加えて創作されています。
インスパイアやオマージュの場合は「インスパイアされた(オマージュを捧げる、リスペクトされた)オリジナル作品はこれです」と胸を張って主張できることが大きなポイントです。オリジナル作品の個性を尊重しながら創造された新しい作品は、人々に意義のあるものとして受け入れられていくのです。
よく混同される「インスパイア」「オマージュ」「パクリ」ですが、それぞれ異なる意味を持っています。自己のオリジナリティを追求したインスパイアやオマージュは芸術の世界に新しい可能性をもたらしますが、パクリは製作者の努力を踏みにじる行為です。
https://online.dhw.co.jp/kuritama/inspire-hommage-parody-pakuri-meaning-and-border/amp/
ロンドンの公立学校に通う11歳のダニエルが、同じ学年のメロディに恋をする。親や教師に内緒で、友人たちとともに二人は結婚式を挙げるという、少年少女のピュアなラブストーリーは、本国イギリスではまったくヒットせず(むしろ「駄作」の烙印を押されてしまった)、先駆けて公開されたアメリカでも成績はパッとしなかった。
しかし両国の不振に関係なく、日本では予想外のヒットを記録した『小さな恋のメロディ』は、熱狂的なファンを獲得することになる。ここから数年にわたって、何度もリバイバル公開が続き、TVのロードショー番組で放映されると高い視聴率を上げた。映画雑誌「スクリーン」ではマーク・レスターやメロディ役のトレイシー・ハイドがたびたび表紙を飾った。
『小さな恋のメロディ』が稀有な魅力を放ったのは、その4年前、サイモン&ガーファンクルの曲を使った『卒業』の流れを受け継ぎ、さらに進化させるスタイルで、音楽と映像の新たな可能性を切り開いたからだろう。
『小さな恋のメロディ』では、キーポイントの場面でビージーズやCSN&Y(クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング)の曲が使われるが、そこだけがまるでミュージックビデオのような効果を発揮している。50年近くを経て改めて観直しても、まったくその魅力は色褪せていない。「メロディ・フェア」「若葉のころ」は映画以前の1969年にすでに発表されていた曲だが、歌詞も含め、映像とあまりにマッチしており、驚くばかりだ。
ビージーズは1977年に『サタデー・ナイト・フィーバー』のサウンドトラックを手がけ、爆発的ブームを起こすのだが、『小さな恋のメロディ』で彼らの曲と映画の美しいケミストリーはすでに起こっていた。
『小さな恋のメロディ』のサントラがCDで発売されたのは日本のみだった。
https://cinemore.jp/jp/erudition/376/article_377_p3.html#a377_p3_1
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