第5話 交響曲第7番といえば
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数十年前、最初に買ったレコードはマーラー5番、(映画の影響)、次は『運命、未完成』、そのあとローンで買ったクラシックの名曲集にもベートーベンの7番はなかった。クラシックの雑学を読んでいると、ブラームス3番の3楽章と、ベートーベン7番の2楽章はよく出てきたが。
1812年頃に制作された交響曲第七番は、ベートーベンの交響曲の中では第一番・第二番・第八番に並ぶマイナーな存在であったといえます。ただ、バレエ音楽を思わせる明るい雰囲気を持っているためそれなりに人気がある楽曲ではあったようです。
そんな、ちょっとマイナーな交響曲第七番がベートーベンの代表曲として再認識されるようになったのが、「のだめカンタービレ」の影響なのです。いわゆる「月九枠」こと月曜日夜九時に放映されたテレビドラマ版「のだめ」は、上野樹里・玉木宏主演で製作され大変な人気を呼びました。交響曲第七番はドラマ版「のだめ」の主題曲として使用され、クラシック音楽を学校の授業でしか聴いていなかった若者層にも強く浸透するきっかけを作ったのです。
あれは? あれは? あの有名な、レコードが擦り減る(?)まで聴いた、頭の中で1楽章も2楽章も鳴っていた、あの旋律。3、4楽章はない……あの名曲は?
Wie meine Liebe nie zu Ende gehen wird,
so soll auch diese Musik nie zu Ende gehen
この五線紙への書き込み、Wikipediaでは「わが恋の成らざるが如く、この曲もまた未完成なり」と訳されていますが、これだと„soll“が生かされていないので、ここはやはりこちら↓でしょうか。
我が恋の終わらざるごとく
この曲もまた終わりなかるべし
“ いったい、陽気な音楽というものが本当にあるんだろうか…僕はそんなもの、ちっとも知らない。 ”
(フランツ・シューベルト)
交響曲第7番ロ短調『未完成』が書かれたのは、1822年のこと。フランツ・シューベルト(1797-1828)が25歳のころです。彼は31歳で腸チフスによって世を去るので、早すぎる晩年期ともいえる時期ですが、この頃から、彼の音楽はおおきく変化して、厭世的な色合いの濃い作品が生まれるようになります。“ 絶望 ”や“ 死 ”というものと向き合わざるを得ない境遇に置かれてしまったためだと推測されています。
以前は「野ばら」や「ます」のような罪のない音楽、家庭的な音楽のイメージが先行していたシューベルトですが、現在ではむしろ、この後期シューベルトの側面のほうが存在感を増しているようです。
実際、そうした方向性から作品をほりさげる演奏家が多くなってきていて、シューベルトは以前よりも多層的な作曲家として捉えなおされている最中といえるでしょう。
このことは、もちろん、シューベルトの研究がすすみ、再評価が高まったという側面もありますが、いっぽうで、私たちがそうした側面に惹かれずにはいられない、“ 神経症の時代 ”を生きているということも強く影響しているでしょう。
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