泣いても笑っても

文字数 589文字

 5月24日 決戦前夜

 やはりあの男は食いついた。
5月25日にコンタクトを取ることに成功した駆は、雇用主である俺に形式上の確認をとって来る。律儀なのか不誠実なのかよく分からない子だな。

「本当にやっていいんだな」

そんな律儀な悪ガキが俺に作戦の許可を乞う。

「ああ、いいと思うよ、俺は」

ユニークな作戦だった。ユニークすぎて、概要を聞かされた直後は、しばらくのたうち回るよう
に笑い、笑い死ぬかと思った。

「お前といると飽きないな」

俺は笑いつつも、隣で何とも形容できない稲村健太郎の表情をチラリと洞察する。

「稲村さんは、どうなの?」

足利駆が宿敵の実父に問うた。

「もう、私もやることはやってしまっている。足利駆君。悪魔だな、君は。私と健次郎が霞んで
見える。…息子の罪は私が背負う。それに、罪を背負うことは慣れているからな」

稲村健太郎がやつれたような、あるいはスッキリしたような顔で自嘲気味に笑った。

「うちの息子を、どうか正しい方向に導いてください」

何十歳も年上の男が、俺たちみたいな未熟な若造に深々と頭を下げる。

俺は、その敬意に追及することなく、『神の神原』らしく笑って応じた。

「もちろんですよ稲村さん。後衛はこの名探偵の俺が、前衛は『令和の怪盗』兼バカ息子のお手
本が担い、あなたの依頼を完遂してみせます」

「おい、しれっと卑下すんな」

 泣いても笑ってもこれが最後。

 俺のようにはなるなよ、駆。
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