×月×日

文字数 777文字

 ×月×日

 中学を卒業した。

 ほとんど不登校の状態だったけど、中学の授業内容は健次郎さんが全て用意してくれた。スマ
ホもインターネットも心を毒す。心の穢れは身体をロゼへの蝕みを促すという伝承に基づき、私
は良い女になれるよう、健次郎さんに相応しい存在になれるように、可能な限りの努力を尽くし
た。

 「小毬は本当に頭がいいね」と褒められるたびに、もっと頑張ろうと、気持ちが躍動した。

 しかし、志望校に合格した際には、少しだけ険しい顔つきになった。私のことを心配してのこ
とだと思う。だから私は、高校を卒業したら大学へは行かずに、なるべく健次郎さんのそばに居
ようと誓った。

 三年間の辛抱だから。もっと立派な人間に、いい女になって戻ってくる。

 人を殺しておいてわがままを言える立場ではないし、そもそも、こんな身体をした私には将来
に夢も希望も抱かなかった。

 ロゼの教会と呼ばれる、廃墟めいた建物の地下室。日曜日のルーティーンとして、地下室にあ
る『ロゼの目』に審判を受ける。

 衣服をすべて捨て去った私を、真っ暗な鏡が映し出す。私の姿を映し出す鏡についた『黒い
目』が、私の真の姿を映し出す。

 中学に入学してからの3年間、赤と緑の浸食は顕著に表れた。思春期による精神的負荷が原因
だと健次郎さんは説明した。

 危機を覚える。青バラだってまだ見つかってないのに。

 それなのに、健次郎さんは冷静だった。人殺しで、こんな化け物の私をそばに置いているの
に、見ていて怖いくらい落ち着いていた。

 きっと、私のためだと思う。健次郎さんは自分の焦りを伝染させないために、小さく震える手
を、小刻みに零れる呼吸を必死に抑えている。

 「ごめんなさい」

 弱音を吐くのは、いつも私だ。

 人を殺しておいて、人に迷惑をかけておいて、自分は好きなだけ苦しみを吐き出せる。

 健次郎さんの方が、ずっと苦しいだろうに。


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