古村健次郎

文字数 707文字

 目の前の透明な板に挟まれ、僕は父親の顔を覗いた。

 「健次郎」

 名前を呼ばれる。

 「俺が、お前たちを置いて勝手に消えていった身だ。その間の空白を想像すれば、お前を責め
ることなんてできない」

 怒号を飛ばされるかと思った。刑務所の職員の眼を気にしたのだろうか。

 「なんだよ、それ」

 嘲るような笑みがこぼれる。呆れてしまう。

「情報漏洩の罪で世間からバッシングを受けて、会見もせずに家族に顔を合わせることも無かっ
た腰抜けが、自分の父親であることが心底恥ずかしいよ」

「そうだな」

「なんだよ、もっと怒れよ。簡単に認めてんじゃねえよ」

「すまなかった。最後の最後で、お前じゃなくて彼らの味方をしてしまった。本当にすまない。
言い逃れはしない。この通りだ」

 深々と頭を下げて謝罪する父親。

 限界だった。

「だから!! 違うって言ってんだよ!! 怒れよ!! もっと! 身の程を知った気になって
縮こまってんじゃねえ!!! 高校生に技術を買収された弱虫らしく、もっと見苦しく怒鳴り散
らせよ!! ああああああ!!!!」

アクリル板を割る勢いで2度叩いたところで、真後ろの職員どもに取り押さえられた。

「落ち着かない時に来てしまってすまない。また来る」

弱弱しく傾いた父親の顔が、閉まるドアで見えなくなる。

「来るなよ、裏切り者…、裏切り者ぉ!!!!」

ふざけやがって。

殺人罪と誘拐罪を犯した僕は、しばらくここから出ることはない。

復讐してやる。

僕を赤の他人のように扱ったあの親父も。

僕のプライドと計画を台無しにした足利駆も。

そして何より、あれだけ尽くしてあげた僕の厚意をゴミのように捨てた女。

待っててね、小毬ちゃん。

君も、アオイ先生みたいにしてあげるから。


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