大泉大洋

文字数 731文字

 「小毬ちゃん、なかなか既読つかないな~」

 「お姉が絡みすぎるから面倒になったんじゃない?」

 「ええ!? やっぱり!? 拓海もそう思う!?」

 小さな機械1つに夢中になる妹と弟を横目に、俺は大きな空を見上げた。

 7月20日。駆が高校を中退し、アメリカの学校へと入学した。なんと、あの神原さんを育て
た師のもとで更なる成長を遂げるというのだ。親友ながら、恐ろしい男よ。敗色濃厚だった古村
健次郎の件も、誰もが戦慄してしまうような奇策で逆転してしまうのだからな。 相手にとって
容赦のない戦法を難なく実行できる精神力には相変わらず脱帽ものだ。

 「フッ、やはり俺の親友だ。駆、俺は俺で成長するからな。大人になってからの再会が楽しみ
だ。その間の連絡や手紙など、要らんだろう」

 「それは単にお兄が教えてもらえなかっただけでしょ。LINEも住所も」

 「拓海、お兄ちゃん泣くぞ? お前の袖で涙を拭うぞ?」

 「あっ、ちょっ、汗臭いから来ないで!」

 年の離れた小さな弟の正論が身に沁みる。

 「あ、小毬ちゃんから返事きた! …へえまだ彼氏できてないんだ~。やっぱ駆くんが好きな
んだね! ひゅーひゅー」

 気楽に笑う妹を見て、青空に向き直り、駆と針本に改めて感謝した。

 「私も彼氏ができて1カ月だけど、駆くんとは真逆で草食だよっ、…と」

 「「か、…彼氏っ!?」」

 じゃれ合っていた拓海と同時に発した驚嘆。愕然とし過ぎて顎が外れそうだった。

 「あれ、言ってなかったっけ?」

 「お姉、どこまでいったの?」

 「う~ん、内緒」

 人差し指を顔の前に艶やかに立てる妹が、女の顔をしていた。


 「うおおおお! 妹を強くし過ぎだぁ! 許さんぞ駆ぅ~! 針本ぉぉ~!!」

 親友たちに向けた声が、夏の空にこだました。
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