第39話

文字数 1,018文字

薄い白色のドレーフのカーテンから午後の優しい光が差し込んでいる。その光を背にして、その男は車椅子に座っていた。後方には身の回りの雑事を受け持つ組員が、車椅子を押しながら付き添っていた。室内は何部屋がに分かれており香月が通された部屋には高級な本革張りの黒いソファーや大型の液晶モニター、天井にはシャンデリア室内のベージュ色の壁には無数の装飾が施され、それらは、そのままこの男の経済力と力を物語っている。
 眼前の男は車椅子の生活になりながらも、猛禽類の眼孔と肉食獣の残忍性を失ってはおらず、静かなる殺意を浮かべ、死の床に就きながら、香月の前に鎮座していた。

「初めまして、別冊ノンフィクションの香月と申します。本日は不躾な取材を受けて頂きましてありがとうございます」

 捕食者に睨まれた獲物のように、極度の緊張の中香月は、なんとか言葉を紡ぎ出した。


「香月さん、もう一度聞くで、一人かい」先程とは少し柔らかい声と雰囲気で、男が再度言葉を投げ掛けて来た。

「はい、一人です」背中に冷たいものが流れた。

「そうか、俺は一人で来る奴の取材は断れへんねん。気楽にしいな、おい!」男の表情が心なしか緩み後方の組員に顎で指示を出した。

「コーヒーでええか?」打ち解けた顔で男が香月に言った。

「いえッ!どうぞ、お構いなく」香月の口から咄嗟に台詞が出た。

「まあまあ、遠慮なんぞせんでええから、そこに座り!」男が呟いた。

「それでは、折角ですので、お言葉に甘えさせて、頂きます」香月が答えた。

「失礼します」程なくして、コーヒーと茶菓子が先程の組員の手によって運ばれてきた。コーヒーを運んできた組員に男は再度顎で指示を出した。

「どうぞ、ごゆっくり」指示された組員は、言うと挨拶をして静かに部屋を辞した。

「で、俺の何が聞きたいねん。抗争の事やったら、粗方のことは週刊誌や大手の新聞社お記者さん達に話したで」コーヒーを口に運びながら、男が香月と目線を会わせ言い。テーブルに置かれたシュガーケースから高級な葉巻を取り出し火を点けると煙をゆっくりと口内で転がし香りを一通り楽しむと香月に煙が掛からないように天井へ向け吐き出した。

「確かに貴方の証言は警察の発表をはじめ各方面のメディアに盛んに掲載されました」香月は男の言葉に相槌をいれながら自分の言葉を紡ぐタイミングを探った。

「一つ聞いてもええか」葉巻を大理石で出来た灰皿に押しつけながら、香月の方へ目を移すと唐突に男が言葉を発した。
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