第11話
文字数 2,653文字
「ちょっと、見てくるわ」占部が二人の様子を見ようと部屋の入り口へと歩き出した。「行ったら、あかん、ここで二人が帰ってくるまで待っとくんや」聖治が占部の肩を掴んで止めた。二人が出て行ってからは、時間が止まっているように思えた。「会長の様子普通やなかったな」島内が心配そうに入り口へ視線を向けた。
「失礼します」不意に、ドアの向こうから声が聞こえ入り口のドアが開くと、ホテルの制服姿の従業員が二人がかりで大きめの円卓を持って入って来た。「これから料理をお持ちしても宜しいですか」二人のうちの年配の方の従業員が許可を求めた。「かまへん、お願いします」聖治が返した。部屋の中央に円卓が置かれ、白いシーツで覆われた。「それでは、お料理をお持ちしますので、暫くお待ちください」続けて年配の従業員が言い部屋を出て行った。ホテルの従業員が出て行ってから暫くするとメイドの衣装に身を固めた若い女性従業員達が複数の種類の料理を持って入って来ると、大皿に盛られた数種類の料理と、同じく数種類のアルコール飲料を円卓の上に置き、丁寧に全員で此方に一礼をして、足早に部屋の外へ出て行った。
斉加と高木が出て行ってから、時間的には僅か二十分程しか経っていないが部屋に残された三人には、その時間が何倍にも長く感じられた。歓談の準備は整ったが誰もそれに手を付ける気にはなれない。「高木の様子、なんや、変やったな」誰かが言った。「そや、なんや知らんけど一人元気が無かったで」誰かの声に別の誰かが被せた。その言葉を最後に、三人は黙り以後は誰一人、一言の言葉も発しなくなり。唯々、過ぎていく時間に無抵抗に身を任せた。
それから、どのくらいの時間が過ぎたのか分からないが、部屋の壁に掛けられた丸い大きな時計の秒針がt時を刻む、その音までがはっきりと聞き取れる程、深い沈黙が続いていた。
「ガッターンー!」激しい勢いで入り口のドアが開けられたのは、二人が出て行って一時間が経過した頃だった。血相を変えた斉加が高木を伴い室内に乱入してくるなり拳を壁に叩きつけた。その凄まじい剣幕の意図が待機していたメンツには理解出来ない「高木なんなんや。どないしてん」二人に一番近い場所に居た島内が怒鳴った。その問いには答えずに高木は血の気の引いた青い顔を下に向け、只、俯いていた。
「うちの兄貴の襲撃に、至誠会の本部が絡んでいるらしいんや」絞り出すように斉加は言い放った。その姿は、まるで、過呼吸を発症した患者の如く苦しそうに見えた。「ちょっと、ええか。それ、裏取れてんの。ガセとちゃうんですか」あまりのことに占部が取り乱した。
「間違いおまへん」終始俯いていたが高木が、何かをふっきたように言った。「いま、高木の知り合いの新聞記者に、俺自身が確かめた」どうやらほんまらしい。斉加が補足した。
「高木、そんなんじゃ、何も、わからんで。一から説明せんかい」聖治が説明を求めた。
「俺が任せられている雀荘の客で麻雀の負けが溜まっている『夕刊浪速』の記者から連絡がありまして、ちょっと前に、会長の殺しの件で匿名のたれ込みが社に寄せられたとの事です。社内ではまだ裏付け調査の段階やけど、情報の出元はかなり信頼のおける筋らしいですわ。内容は会長を殺した襲撃犯が反抗に使った車が、大坂の至誠会本郡の登録や言うことです。念のために免許試験場にも確認して俺に連絡をくれる段取りになっていました。それが最近そいつから裏が取れたと連絡がありまして、警察にも取材済みと言うことです。俺自身大坂の至誠会の本部を暫く張りました。そしたら、そいつから聞かされた車が確かにありました。これが、警察の捜査時の写真と俺が撮った写真です。念のために、その記者とは別に、うちの系列のサラ金の客で多重債務者の警官にも借金の減額をチラつかせて、俺の方から確認をさせました。記者も警官も麻雀の負けと借金の棒引きが目的です。せやから信用してもええと思います」
高木が事の成り行きを一からメンバーに聞かせた。
「そう言う事や、信憑性は高い思うで、そうかい、そう言うことかい」恐ろしいまでの殺気を漲らせて眼光鋭く斉加が言った。「ちょっと、待ってください」若頭補佐の占部貞光が両の手を広げ、部屋に流れる険悪な空気全てを制止するように大声で叫んだ。「決めつけるんは、早いんとちゃいますか?もう一度念には念を入れて、確認した方がええと思います。事は重大だす」占部は続けて意見した。「せや、俺も、その方が絶対にええと思います」占部の言葉に島内が続いた。「それに、百歩譲って、その車が至誠会の車としても、襲撃犯まで至誠会の人間とは限りませんで、ここは、当初の目的通り、先ずは、松永組の組長か若頭を殺るのが先決やと思います」占部が島内の言葉を補うように言った。
「なんや、その言い方、ほな何か俺の話しが嘘ぱちやと言うんかい。冗談いいなや俺かて阿呆ちゃうど、念には念を入れてキッチリっと調べたわい、襲撃犯が誰かなんてこの際関係あるかい、要は、うちの会長殺しに至誠会が関わっていたっちゅうことやないかい。いや、むしろ松永組を使ってうちの会長殺しをやらせたのは、至誠会や、それ以外考えられへんで」冷静になれと諭した島内と占部に情報を掴んだ高木が凄んだ。「本気か、お前、確信もないのに至誠会に喧嘩を仕掛けるなんざ正気の沙汰やないど」島内が眉間に皺を寄せ詰め寄った。
「なんや、お前ら二人、さっきから、聞いていりゃあ、至誠会の名前が出た途端に、その言い草はビビリよったんかい。ほな、何か、兄貴が死んだとき会の事務所で俺に力を貸してくれる言うたんは、上辺だけのオベンチャラかいや?そんなんやったら、いらんど。せやないやろ、聖治・孝・貞光・海斗お前ら四人本気(マジ)で兄貴の敵を取る事を誓ってくれたんやろ。あの時の俺の頼み方が気に入らん言うんやったら、もう一度今此処で頼むは、な、力を貸してくれ、これこの通りや、頼みますはお願いや」斉加が四人を前にして立場もわきまえず、額を床に擦り付け土下座をして涙を見せた
「ちょっと、やめてえな、何してんねん。大将がそんなことしたらあきませんって、わかってますあの時のことは本気(マジ)ですよってに、俺ら四人会長のために尽くさして貰います。せやから手を上げてください、なあ、みんなかてそうやろ先代の無念を晴らすと誓ったのは、決して嘘やないやろ、なあ」他の三人に語りかけながら、床にうつ伏せ泣いている斉加を聖治が抱き起こした
「失礼します」不意に、ドアの向こうから声が聞こえ入り口のドアが開くと、ホテルの制服姿の従業員が二人がかりで大きめの円卓を持って入って来た。「これから料理をお持ちしても宜しいですか」二人のうちの年配の方の従業員が許可を求めた。「かまへん、お願いします」聖治が返した。部屋の中央に円卓が置かれ、白いシーツで覆われた。「それでは、お料理をお持ちしますので、暫くお待ちください」続けて年配の従業員が言い部屋を出て行った。ホテルの従業員が出て行ってから暫くするとメイドの衣装に身を固めた若い女性従業員達が複数の種類の料理を持って入って来ると、大皿に盛られた数種類の料理と、同じく数種類のアルコール飲料を円卓の上に置き、丁寧に全員で此方に一礼をして、足早に部屋の外へ出て行った。
斉加と高木が出て行ってから、時間的には僅か二十分程しか経っていないが部屋に残された三人には、その時間が何倍にも長く感じられた。歓談の準備は整ったが誰もそれに手を付ける気にはなれない。「高木の様子、なんや、変やったな」誰かが言った。「そや、なんや知らんけど一人元気が無かったで」誰かの声に別の誰かが被せた。その言葉を最後に、三人は黙り以後は誰一人、一言の言葉も発しなくなり。唯々、過ぎていく時間に無抵抗に身を任せた。
それから、どのくらいの時間が過ぎたのか分からないが、部屋の壁に掛けられた丸い大きな時計の秒針がt時を刻む、その音までがはっきりと聞き取れる程、深い沈黙が続いていた。
「ガッターンー!」激しい勢いで入り口のドアが開けられたのは、二人が出て行って一時間が経過した頃だった。血相を変えた斉加が高木を伴い室内に乱入してくるなり拳を壁に叩きつけた。その凄まじい剣幕の意図が待機していたメンツには理解出来ない「高木なんなんや。どないしてん」二人に一番近い場所に居た島内が怒鳴った。その問いには答えずに高木は血の気の引いた青い顔を下に向け、只、俯いていた。
「うちの兄貴の襲撃に、至誠会の本部が絡んでいるらしいんや」絞り出すように斉加は言い放った。その姿は、まるで、過呼吸を発症した患者の如く苦しそうに見えた。「ちょっと、ええか。それ、裏取れてんの。ガセとちゃうんですか」あまりのことに占部が取り乱した。
「間違いおまへん」終始俯いていたが高木が、何かをふっきたように言った。「いま、高木の知り合いの新聞記者に、俺自身が確かめた」どうやらほんまらしい。斉加が補足した。
「高木、そんなんじゃ、何も、わからんで。一から説明せんかい」聖治が説明を求めた。
「俺が任せられている雀荘の客で麻雀の負けが溜まっている『夕刊浪速』の記者から連絡がありまして、ちょっと前に、会長の殺しの件で匿名のたれ込みが社に寄せられたとの事です。社内ではまだ裏付け調査の段階やけど、情報の出元はかなり信頼のおける筋らしいですわ。内容は会長を殺した襲撃犯が反抗に使った車が、大坂の至誠会本郡の登録や言うことです。念のために免許試験場にも確認して俺に連絡をくれる段取りになっていました。それが最近そいつから裏が取れたと連絡がありまして、警察にも取材済みと言うことです。俺自身大坂の至誠会の本部を暫く張りました。そしたら、そいつから聞かされた車が確かにありました。これが、警察の捜査時の写真と俺が撮った写真です。念のために、その記者とは別に、うちの系列のサラ金の客で多重債務者の警官にも借金の減額をチラつかせて、俺の方から確認をさせました。記者も警官も麻雀の負けと借金の棒引きが目的です。せやから信用してもええと思います」
高木が事の成り行きを一からメンバーに聞かせた。
「そう言う事や、信憑性は高い思うで、そうかい、そう言うことかい」恐ろしいまでの殺気を漲らせて眼光鋭く斉加が言った。「ちょっと、待ってください」若頭補佐の占部貞光が両の手を広げ、部屋に流れる険悪な空気全てを制止するように大声で叫んだ。「決めつけるんは、早いんとちゃいますか?もう一度念には念を入れて、確認した方がええと思います。事は重大だす」占部は続けて意見した。「せや、俺も、その方が絶対にええと思います」占部の言葉に島内が続いた。「それに、百歩譲って、その車が至誠会の車としても、襲撃犯まで至誠会の人間とは限りませんで、ここは、当初の目的通り、先ずは、松永組の組長か若頭を殺るのが先決やと思います」占部が島内の言葉を補うように言った。
「なんや、その言い方、ほな何か俺の話しが嘘ぱちやと言うんかい。冗談いいなや俺かて阿呆ちゃうど、念には念を入れてキッチリっと調べたわい、襲撃犯が誰かなんてこの際関係あるかい、要は、うちの会長殺しに至誠会が関わっていたっちゅうことやないかい。いや、むしろ松永組を使ってうちの会長殺しをやらせたのは、至誠会や、それ以外考えられへんで」冷静になれと諭した島内と占部に情報を掴んだ高木が凄んだ。「本気か、お前、確信もないのに至誠会に喧嘩を仕掛けるなんざ正気の沙汰やないど」島内が眉間に皺を寄せ詰め寄った。
「なんや、お前ら二人、さっきから、聞いていりゃあ、至誠会の名前が出た途端に、その言い草はビビリよったんかい。ほな、何か、兄貴が死んだとき会の事務所で俺に力を貸してくれる言うたんは、上辺だけのオベンチャラかいや?そんなんやったら、いらんど。せやないやろ、聖治・孝・貞光・海斗お前ら四人本気(マジ)で兄貴の敵を取る事を誓ってくれたんやろ。あの時の俺の頼み方が気に入らん言うんやったら、もう一度今此処で頼むは、な、力を貸してくれ、これこの通りや、頼みますはお願いや」斉加が四人を前にして立場もわきまえず、額を床に擦り付け土下座をして涙を見せた
「ちょっと、やめてえな、何してんねん。大将がそんなことしたらあきませんって、わかってますあの時のことは本気(マジ)ですよってに、俺ら四人会長のために尽くさして貰います。せやから手を上げてください、なあ、みんなかてそうやろ先代の無念を晴らすと誓ったのは、決して嘘やないやろ、なあ」他の三人に語りかけながら、床にうつ伏せ泣いている斉加を聖治が抱き起こした