第23話
文字数 690文字
窓の外から白い光がカーテンの隙間を通して香穂の顔に差し込んでいた。その眩しさで目が覚めた。白いシーツを裸の体に巻き付けてカーテンを全開にすると、大坂市内では珍しく雪が積もっていた。時刻は午前九時三十分を少し回っていた。何時ものように午前七時にアラームをセットした目覚ましは、何度か電子音を響かせたまま止まっていたが、今朝の香穂は全く気付かなかった。部屋のガスファンヒーターの電源を入れて、その姿のままシャワー室へ入った。凍えた体に熱めのシャワーを浴びていると、昨日の夜の事が思い出された。聖治からの携帯で起こされたのは、午前三時を回っていたと思う。パジャマのまま玄関の鍵を開けると時を置かず聖治が帰ってきた。そして、シャワーを浴びたいと言った聖治の着替えを用意している間に、強引にシャワー室に引き込まれた。聖治が浴びていたのは冷水だった、香穂は驚いて急いで温水に切り替えたまでは、はっきりと覚えているがその後のことは記憶が少し、曖昧だった。だが、聖治の体の余韻は香穂の体の芯にはっきりと残っていた。朧気ながらに脳裏に写るのはまだ夜の明けきらない薄明るい部屋に浮かび上がった、聖治の背中の一人の子供を抱く『鬼子母神』の色鮮やかな刺青だった。その刺青を白いシャツが隠し、聖治が持って帰ったバックからグレーのスーツを取り出すと、バックは寝具を入れている押し入れの奥に隠すようにしまい込んでいた。その、グレーのスーツを羽織った聖治が、そのまま部屋を出ていった。その行きがけにテーブルの上に何かメモのようなモノを置いていたと思う。時間と共に香穂の記憶は徐々に蘇り、そして鮮明になっていった。