第40話
文字数 1,591文字
「鬼子母神の墨を煎れた女のことや、女の素性は俺も警察から聞いて知ってる、が、しかし、それだけや、警察も個人情報や言うて報道発表以上のことは喋らへん。無論、組がその気で調べれば解ることやが、女から恨みを買うてそれに本気で報復なんぞした日には、日ノ本一の至誠会の名折れやさかいな。せやから、あんたに聞こう、あの女が俺を狙うた理由(わけ)を、ここに来るくらいや詳しいこと知ってるんやろ」男は香月に向かい確信的に言葉を投げた。
「名前は、大江香穂、徳重会長を撃った大阪政道会の幹部組員『五嶋聖治』の内縁の妻になります。桑木さん」香月は桑木の前でこの名を出すことに少し躊躇したが、隠す事無く桑木に話すことにした。
「五嶋の情婦やと?またんかい、五嶋を殺ったんは同じ大阪政道会の『高木海斗』ちゃうんかい、確か自首しとる筈やで、それは、あんたもご存じの筈やな」穏やかに話していた桑木の顔が一瞬狂気を纏ったのを香月は見逃さなかった。
「はい、そうです、高木海斗は現在、旭川刑務所に服役しています。四月に面会に行って来ました。」香月は訝(いぶか)る様子の桑木に答えた。
「で、どうやったんや」桑木がその時の高木の様子を尋ねた。
「時間にして、四十五分程ですが、彼は一言も何も言わなかった」香月は、雪が降っていたため、鮮明に記憶に残っている旭川刑務所での高木との面会時の出来事を順を追って桑木に話した。
「何にも、言えんかったか。まっ、当然やな、奴のやったことはこの世界では許されへんことやさかいな」高木の行動を批判しつつ桑木の顔が優越感に浸り、さも、満足そうな笑みを称えた。
「やはり!、確信犯なんですね」香月が、桑木の心の中の核心部分を突いた。
「何がや」桑木が返した。
「山桜の栄二を使ったのは、そのためだったのですね」香月が続けた。
「だから、なんやちゅうねん?」香月の心の底を見透かしながら、桑木は恍けて見せた。
『この、男にとって亡くなった、徳重会長は、神に近い存在だったのかもなのかもしれない』桑木の態度に触れながら香月は、脳裏に思いを巡らせた。
「貴方は、高木海斗が兄弟分の五嶋聖治をその手で殺すように仕向けた。違いますか?」香月は取材を進める過程で行き当たった疑問を桑木にぶつけた。
「なあ、人間の本質を見抜くには、どうしたら、ええと、思う」香月の問いには直接答えず桑木は変化球を投じてきた。その目からは、先程までのギラついた殺気が消えて、まるで、悟りを開いた高僧のように千里の果てをも見通す様な透き通った空気を醸し出していた。香月はその雰囲気に一瞬だが飲まれそうになった、が、しかし、なんとか平静を保ち己の心をこちら側に引き戻していた。
「人にはな、三通りのタイプがおんねん。例えばや、見たとおり普通の奴が十人、弱そうな奴が十人、そして、最後に強そうな奴が十人おったらや、見たとおりの奴十人はそのまんまや別に気にせんでもええ見誤る事は無い。せやけど、弱そうな奴十人は目を掛けとかんと、その中にはほんまはとんでもない豪傑が一人か二人混じってるねん。そやから、見た目では判断せんと取り立ててやらな組織の損失やさかいな、問題は、最後の強そうな十人や、この中にも前の弱そうな奴と同じで、とんでもないヘタレが、二、三人は混じっとるんや、これを、もし、見抜くことが出来ずに、放置して組織の真ん中にでも添えた日には、それは、そのまま、組織の弱体化につながんねん、それは、極道でも一般の企業でもや。これは、戦国武将『黒田長政』の言葉や、何が言いたいか解るか?香月はん」桑木が言った言葉は香月には禅問答のように聞こえた。
「済みません。理解出来ません」桑木の言葉に香月は素直に答えた。
「さよか、まあ、かまへんは」桑木は己のかま掛けに困惑する香月の態度を見ながら答えると、ケースから、新しい葉巻を取り出して口に咥えながら火を点けた。
「名前は、大江香穂、徳重会長を撃った大阪政道会の幹部組員『五嶋聖治』の内縁の妻になります。桑木さん」香月は桑木の前でこの名を出すことに少し躊躇したが、隠す事無く桑木に話すことにした。
「五嶋の情婦やと?またんかい、五嶋を殺ったんは同じ大阪政道会の『高木海斗』ちゃうんかい、確か自首しとる筈やで、それは、あんたもご存じの筈やな」穏やかに話していた桑木の顔が一瞬狂気を纏ったのを香月は見逃さなかった。
「はい、そうです、高木海斗は現在、旭川刑務所に服役しています。四月に面会に行って来ました。」香月は訝(いぶか)る様子の桑木に答えた。
「で、どうやったんや」桑木がその時の高木の様子を尋ねた。
「時間にして、四十五分程ですが、彼は一言も何も言わなかった」香月は、雪が降っていたため、鮮明に記憶に残っている旭川刑務所での高木との面会時の出来事を順を追って桑木に話した。
「何にも、言えんかったか。まっ、当然やな、奴のやったことはこの世界では許されへんことやさかいな」高木の行動を批判しつつ桑木の顔が優越感に浸り、さも、満足そうな笑みを称えた。
「やはり!、確信犯なんですね」香月が、桑木の心の中の核心部分を突いた。
「何がや」桑木が返した。
「山桜の栄二を使ったのは、そのためだったのですね」香月が続けた。
「だから、なんやちゅうねん?」香月の心の底を見透かしながら、桑木は恍けて見せた。
『この、男にとって亡くなった、徳重会長は、神に近い存在だったのかもなのかもしれない』桑木の態度に触れながら香月は、脳裏に思いを巡らせた。
「貴方は、高木海斗が兄弟分の五嶋聖治をその手で殺すように仕向けた。違いますか?」香月は取材を進める過程で行き当たった疑問を桑木にぶつけた。
「なあ、人間の本質を見抜くには、どうしたら、ええと、思う」香月の問いには直接答えず桑木は変化球を投じてきた。その目からは、先程までのギラついた殺気が消えて、まるで、悟りを開いた高僧のように千里の果てをも見通す様な透き通った空気を醸し出していた。香月はその雰囲気に一瞬だが飲まれそうになった、が、しかし、なんとか平静を保ち己の心をこちら側に引き戻していた。
「人にはな、三通りのタイプがおんねん。例えばや、見たとおり普通の奴が十人、弱そうな奴が十人、そして、最後に強そうな奴が十人おったらや、見たとおりの奴十人はそのまんまや別に気にせんでもええ見誤る事は無い。せやけど、弱そうな奴十人は目を掛けとかんと、その中にはほんまはとんでもない豪傑が一人か二人混じってるねん。そやから、見た目では判断せんと取り立ててやらな組織の損失やさかいな、問題は、最後の強そうな十人や、この中にも前の弱そうな奴と同じで、とんでもないヘタレが、二、三人は混じっとるんや、これを、もし、見抜くことが出来ずに、放置して組織の真ん中にでも添えた日には、それは、そのまま、組織の弱体化につながんねん、それは、極道でも一般の企業でもや。これは、戦国武将『黒田長政』の言葉や、何が言いたいか解るか?香月はん」桑木が言った言葉は香月には禅問答のように聞こえた。
「済みません。理解出来ません」桑木の言葉に香月は素直に答えた。
「さよか、まあ、かまへんは」桑木は己のかま掛けに困惑する香月の態度を見ながら答えると、ケースから、新しい葉巻を取り出して口に咥えながら火を点けた。