第14話
文字数 1,596文字
季節が猛暑から残暑へと移り変わり、地表に写る、影法師が点から線へと移行し始める十月上旬の黄昏時、香月は大坂のミナミと並ぶ繁華街の「曾根崎新地」通称「北新地」に来ていた。北新地とは、北は曾根崎通り(国道2号線)から南は(堂島浜通り)まで、東は(御堂筋)西は(四つ橋筋)に囲まれた地域の総称である。ここには、高級ラウンジ、スナック、バー、小料理屋が中心の高級店が多く並び庶民向けの店舗は一部の大手チェーン店を除けば殆ど展開していない。東京の銀座、京都の祇園と、並び称される日本有数の繁華街だ。ここに、かつて、大阪政道会の新しい若頭の「五嶋聖治」が、至誠会会長「徳重正也」を補足するために張り付いていた。日差しのある内はゴーストタウンだったこの街が、照りつけた太陽が西に姿を消し夕暮れから夜の表情を見せ始めると辺りは一斉に、花びらを散らしたような色鮮やかなネオン街に姿を変え、一時の快楽へと人々を誘い始める。香月はかつて五嶋聖治が通った、高級クラブの「CLUB 冬華」が入っていたビルの前に立っていた。
現在は経営者も変わり別の店が、暖簾を構えているが香月はビルの周囲を丁寧に取材し往事の様子を事細かに書き留めていた。スマホに着信音が届いた。画面を見ると非通知の文字が浮かび上がっていた。スマホの着電を押し耳に当てると、女の声が聞こえて来た。
「香月さんですか?茜と申します。今どちらにおいですか?」電話の主は香月が取材を申し込んでいた、茜と名乗る女性からだった。勿論本名ではないだろうが、香月との約束の時間よりも十五分ほど早い電話だった。
「曾根崎一丁目の交差点です。茜さんは、今、どちらですか」香月が聞き返した。「私は、新地の本通りまで来ています」スマホの向こう茜が囁く「分かりました。私がそちらに向かいます。近くにラーメン屋が見えますか?」香月が場所を確認した。「えっ!、あっ、あります」茜が返した。「では、今から、向かいますので、そこに居てください」言うと香月は歩き出した。
指定した飲食店の前まで行くと、茜らしき着物姿の女性が立っていた。「別冊ノンフィクションでライターの香月です。今日は有り難うございます」いいながら名刺を差し出した。「ご丁寧に、頂きます」香月の名刺を受け取り、内容を一通り確認すると、名刺入れを取り出しその中へ尚した。「では、席を用意しましたので、案内します」香月は前もって予約しておいたイタリアンレストランに茜を案内した。店に入ると黒服に身を包んだ店員が奥の個室へと二人を案内した。
店員が去ると、茜は改めて香月に名刺を渡し自己紹介をした。差し出された名刺には「CLUB聚楽ママ」の文字が印刷されていた。茜の頭部は日本髪で結ってあり、香月から見て、向かって左側は白の無地、無かって、右側は濃紺の下地に白抜きで桜の花びらが浮かび上がった見事な着物を、寸分の隙も無く着こなしていた。香月は、北新地と言う日本でも有数の富裕層が集う場所で一ホステスから、若くして、店舗を任されるママにまでのし上がった目の前の女の迫力に圧倒された。明らかに自分より年下であろう、彼女の目を正面から正視することが出来なかった。
「今日は、おい忙しいなかお時間を頂きまして、有り難うございます」香月は型どおりの挨拶をした。「いいえ、こちらこそ、他でもない香穂さんと影村さん、いえ、ごめんなさい、五嶋さんの事とお伺いしましたので」茜が言葉に詰まりながら言った。
「ええ、茜さんは、以前あった『CLUB 冬華』で大江香穂と一緒に働いていたとうかがいましたので、是非、お話をお聞かせ願いたいと思いまして、不躾ながら連絡をさせて頂きました。ご無礼をお許しください」香月は、言葉を選びながら、ゆっくりと茜に話し掛けた。
「香穂さんとは、以前NO1の座を競い合った好敵手(ライバル)でしたから」懐かしむように茜が言った。
現在は経営者も変わり別の店が、暖簾を構えているが香月はビルの周囲を丁寧に取材し往事の様子を事細かに書き留めていた。スマホに着信音が届いた。画面を見ると非通知の文字が浮かび上がっていた。スマホの着電を押し耳に当てると、女の声が聞こえて来た。
「香月さんですか?茜と申します。今どちらにおいですか?」電話の主は香月が取材を申し込んでいた、茜と名乗る女性からだった。勿論本名ではないだろうが、香月との約束の時間よりも十五分ほど早い電話だった。
「曾根崎一丁目の交差点です。茜さんは、今、どちらですか」香月が聞き返した。「私は、新地の本通りまで来ています」スマホの向こう茜が囁く「分かりました。私がそちらに向かいます。近くにラーメン屋が見えますか?」香月が場所を確認した。「えっ!、あっ、あります」茜が返した。「では、今から、向かいますので、そこに居てください」言うと香月は歩き出した。
指定した飲食店の前まで行くと、茜らしき着物姿の女性が立っていた。「別冊ノンフィクションでライターの香月です。今日は有り難うございます」いいながら名刺を差し出した。「ご丁寧に、頂きます」香月の名刺を受け取り、内容を一通り確認すると、名刺入れを取り出しその中へ尚した。「では、席を用意しましたので、案内します」香月は前もって予約しておいたイタリアンレストランに茜を案内した。店に入ると黒服に身を包んだ店員が奥の個室へと二人を案内した。
店員が去ると、茜は改めて香月に名刺を渡し自己紹介をした。差し出された名刺には「CLUB聚楽ママ」の文字が印刷されていた。茜の頭部は日本髪で結ってあり、香月から見て、向かって左側は白の無地、無かって、右側は濃紺の下地に白抜きで桜の花びらが浮かび上がった見事な着物を、寸分の隙も無く着こなしていた。香月は、北新地と言う日本でも有数の富裕層が集う場所で一ホステスから、若くして、店舗を任されるママにまでのし上がった目の前の女の迫力に圧倒された。明らかに自分より年下であろう、彼女の目を正面から正視することが出来なかった。
「今日は、おい忙しいなかお時間を頂きまして、有り難うございます」香月は型どおりの挨拶をした。「いいえ、こちらこそ、他でもない香穂さんと影村さん、いえ、ごめんなさい、五嶋さんの事とお伺いしましたので」茜が言葉に詰まりながら言った。
「ええ、茜さんは、以前あった『CLUB 冬華』で大江香穂と一緒に働いていたとうかがいましたので、是非、お話をお聞かせ願いたいと思いまして、不躾ながら連絡をさせて頂きました。ご無礼をお許しください」香月は、言葉を選びながら、ゆっくりと茜に話し掛けた。
「香穂さんとは、以前NO1の座を競い合った好敵手(ライバル)でしたから」懐かしむように茜が言った。