第３４話

　久しぶりにミナミに買い物に出てきた香穂は、子供用の衣服や用品を扱うショップや健康食品の店舗を見て廻り、穏やかな時間を過ごしていた。香穂の目線の先に設置された大型ディスプレイには、はやりのショップの春物セールなど季節のショッピング情報などが写し出されており、香穂はそれに、見入っていた。が、しかし、その画面が突然切り替わり国営放送の『お昼のニュース』が大写しで映し出された』男性アナウンサーが中継先の記者を呼び出した。程なく映像は中継先に切り替わり、呼び出された記者がスタジオのスーツ姿のアナウンサーとは対照的なラフ
な姿で映し出され、左手にマイク右手にメモ帳を持ち、それを見ながら現場の状況を読み上げた。
　
　内容は、金沢沖で操業中の漁師が天候不良のために漁を諦めて港に引き返す途中に発見された、男性の変死体のレポートと死体の状況だった。レポーターの言葉が続く内に死体の状況が徐々に明らかにされて行くと、同時に司法解剖や身元と調査とこれからの捜査の行程が画面下部にテロップとして流れていった。その過程でのレポーターの一言が、金沢と言う地名に不安を覚えていた、香穂の心を引き裂いていった。

『嘘ッ！』香穂の心が絶叫し、その瞬間、身体も心も周りの全ても闇に包まれて行った。

「おい、大丈夫か？救急車ッ！」薄れ行く意識の中で誰かが叫んでいた。
　
『天井からのライトの灯りが眩しかった』
　体はストレッチャーに固定され、その状態で看護師や救急隊員がそれをゆっくりと押していた。その中に、一目で医師と解る体裁の女性が混じって他の関係者に指示を出していた。意識が戻った香穂が視線を泳がしていると、瞬間その女医と目が合った。女医は香穂の瞳に目を閉じて首を横に二度振って見せた。下腹部から伝わって来る違和感で香穂は、その意味を知った。

『まさか、そんな！ッ！』

　受け入れがたい現実が、香穂の前に立ちはだかる、香穂の気持ちを察した女医は目を背けると、矢継ぎ早に次の指示を出していた。香穂を乗せたストレッチャーは、そのまま、集中治療室に入っていった。