第18話
文字数 2,057文字
「徳重の命(タマ)は、俺が取る」昼間、南森町の大阪政道会の薄暗いアジトで、聖治が複数の幹部たちを前に宣言した。「まあ、そんなに、いきり立つなや、此処は冷静に手順と各自の役割だけは確認しとこうやないかい」はやる聖治を宥めるように、大阪政道会二代目会長の溝口斉加が言った。
「野郎が入り口の回転扉から出てきた瞬間や、この時ばかりは必ずボディーガードと野郎の間に体のずれが生じて、徳重がほんの僅かの一秒か二秒かの間かもしれへんが無防備になる、そこを逃さずに、こいつの鉛(タマ)、ありったけぶち込んでやるわ」聖治は言いながら九ミリのオート拳銃を胸の前に構えて見せた。「聖治は潜伏中に外国で射撃に明け暮れてたからな。今現在こんなかで聖治に敵う奴なんかおらへんさかいに、俺らに異論は無いわ、そんで決まりや」斉加の言葉に異論を唱える者はいなかった。襲撃の実行犯は、聖治と万が一聖治がしくじったときの為の予備の要員に島内孝、逃走用の車の運転と武器の運搬は、占部貞光、敢えて武器を聖治が携行しないのは万に一つの警察に職務質問をされたときの用心の為だ。高木と斉加はアジトで待機しての連絡係と言う役割分担が決まった。そして、その場で、聖治以外の幹部にも九ミリオート式と三十八口径の回転式の拳銃が渡された。
『CLUB翡翠』の、低い天井の室内には、防音使用のクリーム色の厚目の化粧ボードが貼られ、中央に吊されたシャンデリアから放たれる、クリスタルの優しく暖かみのある光が店内を覆っていた。大きめのバストの谷間を強調した赤いロングドレスを着た、エリと名乗る馴染みのホステスが聖治の隣についた。「影村さん随分ご無沙汰やね何処いってたん浮気してたんちゃうの、いややで」エリがこの店の全ての客に言うと思われる、お決まりの営業トークで、偽名を名乗る聖治の腕に両腕を絡みつけバストを押しつけてきた。
「おっと、出たなその言葉、みんなに言うてんやろ」エリの言葉に、笑いながら聖治が軽口で返した。「もう、イケずやは、なんでそんなん言うの。影村さんだけやでこんなんするの」言いながら、聖治の腕に押し当てたバストを更に強く押し当てて、誘うように聖治の目を見た。「解った、新しいボトルを入れてや」エリの魂胆を見透かして聖治が言った。『今日はこいつらの今月の決済日や、多少サービスしとかな』心の中で呟いた。「嬉しいわ、おおきに、うち、影村さん大好きやわ」弾けるような笑顔でエリが礼を聖治に言った。『冬華に居ったときの香穂や同僚の茜はこんなん、せえへんかったな。まっ、それだけ必死と言うことやな』聖治は営業成績が良くないであろうエリをおもんばかった。「失礼します」黒服に身を包んだ男性の従業員が、真新しい高級ウィスキーのボトルとキープ用のラベルを聖治のテーブルに置いた。「ありがとう!」喜々として、エリがボトルを受け取ると、ラベルにホワイトペンで『かげむら』と平仮名の丸文字で書いて、ボトルを運んできた従業員に渡した。「せやせや、ここん所、至誠会の人たち全然ご無沙汰やねん。まっ、変に気を遣わんでもええぶん、私らには、ありがたいけどね」聖治の左の肩に頬を預け甘えるようにエリが言う。「やっぱ、極道は嫌か?」聖治が聞き返した。「私はね、でも、女の子の中には極道の方が男らしくて素敵という子も結構いるねん。実際、お店の女の子の中にも、あの人達に抱かれて囲い者になっている子も居るしね」言いながら、エリが蔑視の視線を他のテーブル席で接客中のホステスに向けた。「でも、私、影村さんなら、ええよ」顔がぶつかるくらいに近づけてエリが女の顔を覗かせた。「おいおい、待たんかい。俺はサラリーマンや、北新地の女の子口説けるなんて、夢にも思うてへんわい」聖治は両手でエリを遠ざけ笑いながら言った。「嘘や!影村さんって!単なるサラリーマンなんかやあらへんやろ。なんで、私に、嘘言うの」目に涙を称えてエリが抗議する。「俺がサラリーマンや無いなら、俺は誰やねん」聖治がエリに返した。「それは!」エリが喉まで出た言葉を飲み込んだ。『やっぱり、こいつら、鋭いわ、俺の正体バレてるな』聖治の本能が聖治自身に警告を発した。「・・・・・」無言の内にエリが聖治の顔を見たまま視線を外そうとはしない。『ここに来るのも、潮時やな。別の方法考えな、あかんわ』心の中で聖治が呟いた。「いらっしゃいませ!」店中のホステスが一斉に入り口の重厚な扉の方を向いて叫んだ。開かれた扉の向こうから、上下白の背広とサングラスを身に付けて、頭は短髪に刈り込んだ長身で肩幅の広い、明らかに堅気でない男が入って来た。その後に続いて、上下〈DARK BROWN〉のダブルのスーツに身を包んだ、中肉中背、白髪混じりの髪はオールバックに固め、如何にも品のある紳士風の年配の男が聖治の視線に入った。その男を見た瞬間、聖治は体中の血液が逆流し一瞬にして沸点に達した事を覚えた。『徳重や!』聖治は、大声で叫びそうになった、自分を必死に押さえ込んだ。
「野郎が入り口の回転扉から出てきた瞬間や、この時ばかりは必ずボディーガードと野郎の間に体のずれが生じて、徳重がほんの僅かの一秒か二秒かの間かもしれへんが無防備になる、そこを逃さずに、こいつの鉛(タマ)、ありったけぶち込んでやるわ」聖治は言いながら九ミリのオート拳銃を胸の前に構えて見せた。「聖治は潜伏中に外国で射撃に明け暮れてたからな。今現在こんなかで聖治に敵う奴なんかおらへんさかいに、俺らに異論は無いわ、そんで決まりや」斉加の言葉に異論を唱える者はいなかった。襲撃の実行犯は、聖治と万が一聖治がしくじったときの為の予備の要員に島内孝、逃走用の車の運転と武器の運搬は、占部貞光、敢えて武器を聖治が携行しないのは万に一つの警察に職務質問をされたときの用心の為だ。高木と斉加はアジトで待機しての連絡係と言う役割分担が決まった。そして、その場で、聖治以外の幹部にも九ミリオート式と三十八口径の回転式の拳銃が渡された。
『CLUB翡翠』の、低い天井の室内には、防音使用のクリーム色の厚目の化粧ボードが貼られ、中央に吊されたシャンデリアから放たれる、クリスタルの優しく暖かみのある光が店内を覆っていた。大きめのバストの谷間を強調した赤いロングドレスを着た、エリと名乗る馴染みのホステスが聖治の隣についた。「影村さん随分ご無沙汰やね何処いってたん浮気してたんちゃうの、いややで」エリがこの店の全ての客に言うと思われる、お決まりの営業トークで、偽名を名乗る聖治の腕に両腕を絡みつけバストを押しつけてきた。
「おっと、出たなその言葉、みんなに言うてんやろ」エリの言葉に、笑いながら聖治が軽口で返した。「もう、イケずやは、なんでそんなん言うの。影村さんだけやでこんなんするの」言いながら、聖治の腕に押し当てたバストを更に強く押し当てて、誘うように聖治の目を見た。「解った、新しいボトルを入れてや」エリの魂胆を見透かして聖治が言った。『今日はこいつらの今月の決済日や、多少サービスしとかな』心の中で呟いた。「嬉しいわ、おおきに、うち、影村さん大好きやわ」弾けるような笑顔でエリが礼を聖治に言った。『冬華に居ったときの香穂や同僚の茜はこんなん、せえへんかったな。まっ、それだけ必死と言うことやな』聖治は営業成績が良くないであろうエリをおもんばかった。「失礼します」黒服に身を包んだ男性の従業員が、真新しい高級ウィスキーのボトルとキープ用のラベルを聖治のテーブルに置いた。「ありがとう!」喜々として、エリがボトルを受け取ると、ラベルにホワイトペンで『かげむら』と平仮名の丸文字で書いて、ボトルを運んできた従業員に渡した。「せやせや、ここん所、至誠会の人たち全然ご無沙汰やねん。まっ、変に気を遣わんでもええぶん、私らには、ありがたいけどね」聖治の左の肩に頬を預け甘えるようにエリが言う。「やっぱ、極道は嫌か?」聖治が聞き返した。「私はね、でも、女の子の中には極道の方が男らしくて素敵という子も結構いるねん。実際、お店の女の子の中にも、あの人達に抱かれて囲い者になっている子も居るしね」言いながら、エリが蔑視の視線を他のテーブル席で接客中のホステスに向けた。「でも、私、影村さんなら、ええよ」顔がぶつかるくらいに近づけてエリが女の顔を覗かせた。「おいおい、待たんかい。俺はサラリーマンや、北新地の女の子口説けるなんて、夢にも思うてへんわい」聖治は両手でエリを遠ざけ笑いながら言った。「嘘や!影村さんって!単なるサラリーマンなんかやあらへんやろ。なんで、私に、嘘言うの」目に涙を称えてエリが抗議する。「俺がサラリーマンや無いなら、俺は誰やねん」聖治がエリに返した。「それは!」エリが喉まで出た言葉を飲み込んだ。『やっぱり、こいつら、鋭いわ、俺の正体バレてるな』聖治の本能が聖治自身に警告を発した。「・・・・・」無言の内にエリが聖治の顔を見たまま視線を外そうとはしない。『ここに来るのも、潮時やな。別の方法考えな、あかんわ』心の中で聖治が呟いた。「いらっしゃいませ!」店中のホステスが一斉に入り口の重厚な扉の方を向いて叫んだ。開かれた扉の向こうから、上下白の背広とサングラスを身に付けて、頭は短髪に刈り込んだ長身で肩幅の広い、明らかに堅気でない男が入って来た。その後に続いて、上下〈DARK BROWN〉のダブルのスーツに身を包んだ、中肉中背、白髪混じりの髪はオールバックに固め、如何にも品のある紳士風の年配の男が聖治の視線に入った。その男を見た瞬間、聖治は体中の血液が逆流し一瞬にして沸点に達した事を覚えた。『徳重や!』聖治は、大声で叫びそうになった、自分を必死に押さえ込んだ。