第20話
文字数 2,524文字
「聖治さん!」島内が自販機の飲み物を聖治に差し出した。「おおきに、貰うわ」言うと聖治はペットボトルのスクリューキャップを勢いよく外し、中のスポーツドリンクを喉の奥に流し込んだ。「取り敢えず、このまま市内を一時間ほど流して、北新地に戻ります」運転手の占部が聖治に告げる。「ああ!、そんで、ええ」聖治が返した。「やれそうですか?」島内が緊張をはらんだ声で聖治に問うた。「狙う者と狙われる者なら、狙う者の方が絶対有利や、今夜は俺らが捕食者や」聖治が言った。
車が、四つ橋筋から、北新地に入り『翡翠』のある本通りへと入ると、翡翠の、入るビルの前の交差点を南へと折れ、『上通り』に出た。道路脇の、コイン・パーキングに車を入れた。「ちょっと、見てきます」上ずった声を出して運転席から占部が降り、徒歩で、翡翠の方へと歩いて行った。聖治たちが一旦北新地を後にしてから、一時間の経過を向かいのビルに掛けられた、大時計が指していた。「孝、徳重は俺一人で殺る。お前は占部とここに残れ」聖治が島内に言った。「今更、何を言うてんですか」聖治の言葉に島内が毅然と反発の態度を見せた。「まあ!、聞け、今夜俺たちは、殺人を侵す。長期は逃れらへん。メンバーの中で、チビがおらへんのは、お前と俺だけや、お前は若いし何もこの先、生きていく上でのハンディーを背負うことは無い、罪は俺一人に被せて、お前は降りたらええ」諭すように聖治が島内に語った。「聖治さんの気持ちは、解るしありがたいとも思いますが、それは、呑めません」聖治の申し出を、即座に島内が遠ざけた。
「ドン!、」車の後部を叩く音がして、スライドドアが外から開けられると、様子見に行っていた占部が顔を出した。「そろそろ、移動しましょか?時間も時間ですし」言うと占部は車を『翡翠』の近くへと移動させた。通りからビルの間の狭い路地に入り、ネオンのや外灯の死角になった暗がりで停止した。前方に目をやると、ビルの入り口の回転扉がよく見えた。「・・・・・」聖治は無言でスライドドアを開けると車の前に出て、同時に銃の安全装置を外すと身を低くして身構えた、占部は運転席で顔を伏せ身を隠し、離脱に備えた。島内は、更に前に出て回転扉を注視し息を潜めた。三人の間を凍り付くような時間が、一刻、また、一刻と流れていった。緊張か武者震いか聖治の体が痙攣を始めた。周りの景色も時間も停止した中で、聖治の心臓の鼓動だけが大きく響いた。『出てきました!』声を出さずにゼスチャーで叫びながら島内が合図をした。時刻は、間もなく午後十時三十分になる。ママが言った二時間よりも、少し、長くなっている。聖治の目は入り口の回転扉一点に集中し、扉の向こう側から談笑しながら、複数のホステスやママと歩いてくる一団を捕捉した。回転扉が開き、徳重の運転手が車を廻すため一人だけ、先に出ると左右を見て周囲を確認して駐車場に向かって行った。運転手の姿が消えると、安全を確信したかのように、徳重会長の一団が回転扉に近づいて来た。そして、『翡翠』の店内で聖治が見た、上下、白の背広とサングラスのボディーガードが、徳重会長の前を固めて扉の前に立った。「・・・・・」聖治は島内を左手で制すると路地から出て、暗がりをなぞる様に、そして、静かに、まるでアフリカのサバンナに隠れて獲物に近づく肉食獣の様に、白服の視線の死角を意識してビルの入り口へ向かい歩き出した。ネオン街には光の当たり方や角度によって、灯りが当たらない死角必ずが出来る。通常では意識されないその死角は、しかし、驚くほどの闇である、それはまるで、『ブラックホール』の如く、聖治からは昼間のように明るいビルの入り口の回転扉は、はっきりと視認できるが逆に明るい所にいる徳重以下至誠会の連中からは、ビルの谷間の暗がりに身を潜める聖治は、絶対に見えない。徳重までは目測で約三十メートル弱だろう。聖治はのホルスターから銃を抜き、安全装置を外し、その時を待った。数ある武器の中でも、拳銃射撃は最も難しい部類に入る。素人がある日突然撃っても先ず命中はしない。確実に当てるには、理想として十五から十メートルの距離まで詰める必要があった。 体を小さくかがめて飛び出す態勢を整えた。「・・・・・」白服が回転扉から外に出て来ると安全確認の為周囲を見渡した。そして、手招きの動作をする、その動作に誘われるように至誠会会長、徳重正也が回転扉から、今、屋外に出ようとしていた。「・・・・・」瞬間息を止めた聖治が暗がりから躍り出ると、ビルに入り口へ向かい全力で走り出した。両手を伸ばして保持した、銃の銃口を 振り上げるように徳重の胴体へ向け、引き金のブレを右手の人差し指で殺した。ゆっくりと指を手前に引いてくる感覚で引き金を絞った。その刹那、白服と視線が合った。明らかに狼狽している。『気付かれた』聖治は、思いながらも『ままよ!』と構わず動作を続けた。白服がその一瞬肩で、徳重を回転扉の方へ軽く押しやった。不意をつかれ、体に力が入らなかったのかもしれない、徳重は軽くよろけただけだった。瞬時、閃光が走り『パーーン』二月の透き通った空気の中に乾ききった銃声が響いた、と、同時に、白服が懐に手を入れるのが見えた「・・・・・」聖治は迷わず引き金を引いた。白服が弾けるように血しぶきを連れて後方へ飛んだ。そして、聖治の視線に倒れた徳重が入った。「やった!」声には出さずに聖治は叫んだ。「キャーッ!」ホステス達の断末魔と聞きまごう悲鳴が響き、我先と競うように入り口から屋外へと引き返そうとした。その圧力で、もう一人のボディーガードは、ビルの中へと押し戻された。聖治はビルに背中を向けると、一心不乱に走り出した。その前に占部が運転するバンが止まる。ドアを開き飛び乗ると車は、けたたましいタイヤ音とタイヤ痕を残して急発進をする。「またんかい!」いつの間にか女達に押し戻されていた、もう一人のボディーガードが銃を構えて車の前に飛び出してきた。「聖治さん!」運転席の占部が叫ぶ、「いてもうたれ」大声で聖治が返す。「ドンッ!」激しい衝突音と衝撃と共に人間が人形のように宙に弾け飛んだ。
車が、四つ橋筋から、北新地に入り『翡翠』のある本通りへと入ると、翡翠の、入るビルの前の交差点を南へと折れ、『上通り』に出た。道路脇の、コイン・パーキングに車を入れた。「ちょっと、見てきます」上ずった声を出して運転席から占部が降り、徒歩で、翡翠の方へと歩いて行った。聖治たちが一旦北新地を後にしてから、一時間の経過を向かいのビルに掛けられた、大時計が指していた。「孝、徳重は俺一人で殺る。お前は占部とここに残れ」聖治が島内に言った。「今更、何を言うてんですか」聖治の言葉に島内が毅然と反発の態度を見せた。「まあ!、聞け、今夜俺たちは、殺人を侵す。長期は逃れらへん。メンバーの中で、チビがおらへんのは、お前と俺だけや、お前は若いし何もこの先、生きていく上でのハンディーを背負うことは無い、罪は俺一人に被せて、お前は降りたらええ」諭すように聖治が島内に語った。「聖治さんの気持ちは、解るしありがたいとも思いますが、それは、呑めません」聖治の申し出を、即座に島内が遠ざけた。
「ドン!、」車の後部を叩く音がして、スライドドアが外から開けられると、様子見に行っていた占部が顔を出した。「そろそろ、移動しましょか?時間も時間ですし」言うと占部は車を『翡翠』の近くへと移動させた。通りからビルの間の狭い路地に入り、ネオンのや外灯の死角になった暗がりで停止した。前方に目をやると、ビルの入り口の回転扉がよく見えた。「・・・・・」聖治は無言でスライドドアを開けると車の前に出て、同時に銃の安全装置を外すと身を低くして身構えた、占部は運転席で顔を伏せ身を隠し、離脱に備えた。島内は、更に前に出て回転扉を注視し息を潜めた。三人の間を凍り付くような時間が、一刻、また、一刻と流れていった。緊張か武者震いか聖治の体が痙攣を始めた。周りの景色も時間も停止した中で、聖治の心臓の鼓動だけが大きく響いた。『出てきました!』声を出さずにゼスチャーで叫びながら島内が合図をした。時刻は、間もなく午後十時三十分になる。ママが言った二時間よりも、少し、長くなっている。聖治の目は入り口の回転扉一点に集中し、扉の向こう側から談笑しながら、複数のホステスやママと歩いてくる一団を捕捉した。回転扉が開き、徳重の運転手が車を廻すため一人だけ、先に出ると左右を見て周囲を確認して駐車場に向かって行った。運転手の姿が消えると、安全を確信したかのように、徳重会長の一団が回転扉に近づいて来た。そして、『翡翠』の店内で聖治が見た、上下、白の背広とサングラスのボディーガードが、徳重会長の前を固めて扉の前に立った。「・・・・・」聖治は島内を左手で制すると路地から出て、暗がりをなぞる様に、そして、静かに、まるでアフリカのサバンナに隠れて獲物に近づく肉食獣の様に、白服の視線の死角を意識してビルの入り口へ向かい歩き出した。ネオン街には光の当たり方や角度によって、灯りが当たらない死角必ずが出来る。通常では意識されないその死角は、しかし、驚くほどの闇である、それはまるで、『ブラックホール』の如く、聖治からは昼間のように明るいビルの入り口の回転扉は、はっきりと視認できるが逆に明るい所にいる徳重以下至誠会の連中からは、ビルの谷間の暗がりに身を潜める聖治は、絶対に見えない。徳重までは目測で約三十メートル弱だろう。聖治はのホルスターから銃を抜き、安全装置を外し、その時を待った。数ある武器の中でも、拳銃射撃は最も難しい部類に入る。素人がある日突然撃っても先ず命中はしない。確実に当てるには、理想として十五から十メートルの距離まで詰める必要があった。 体を小さくかがめて飛び出す態勢を整えた。「・・・・・」白服が回転扉から外に出て来ると安全確認の為周囲を見渡した。そして、手招きの動作をする、その動作に誘われるように至誠会会長、徳重正也が回転扉から、今、屋外に出ようとしていた。「・・・・・」瞬間息を止めた聖治が暗がりから躍り出ると、ビルに入り口へ向かい全力で走り出した。両手を伸ばして保持した、銃の銃口を 振り上げるように徳重の胴体へ向け、引き金のブレを右手の人差し指で殺した。ゆっくりと指を手前に引いてくる感覚で引き金を絞った。その刹那、白服と視線が合った。明らかに狼狽している。『気付かれた』聖治は、思いながらも『ままよ!』と構わず動作を続けた。白服がその一瞬肩で、徳重を回転扉の方へ軽く押しやった。不意をつかれ、体に力が入らなかったのかもしれない、徳重は軽くよろけただけだった。瞬時、閃光が走り『パーーン』二月の透き通った空気の中に乾ききった銃声が響いた、と、同時に、白服が懐に手を入れるのが見えた「・・・・・」聖治は迷わず引き金を引いた。白服が弾けるように血しぶきを連れて後方へ飛んだ。そして、聖治の視線に倒れた徳重が入った。「やった!」声には出さずに聖治は叫んだ。「キャーッ!」ホステス達の断末魔と聞きまごう悲鳴が響き、我先と競うように入り口から屋外へと引き返そうとした。その圧力で、もう一人のボディーガードは、ビルの中へと押し戻された。聖治はビルに背中を向けると、一心不乱に走り出した。その前に占部が運転するバンが止まる。ドアを開き飛び乗ると車は、けたたましいタイヤ音とタイヤ痕を残して急発進をする。「またんかい!」いつの間にか女達に押し戻されていた、もう一人のボディーガードが銃を構えて車の前に飛び出してきた。「聖治さん!」運転席の占部が叫ぶ、「いてもうたれ」大声で聖治が返す。「ドンッ!」激しい衝突音と衝撃と共に人間が人形のように宙に弾け飛んだ。