第7話

文字数 1,224文字

溝口様のご遺族の方準備が出来ましたので七番釜の前までお越し下さい。火葬場の場内アナウンスが流れ、遺族の移動を促した。待合室では誰一人として言葉を発する者もなく沈黙の時が流れていた。「行くで!」重い空気の中斉加が言い立ち上がりその場に控えている、聖治以下四人の若頭補佐に、移動を命じた。
 指定された七番釜では、すでに焼けた棺桶が釜から出され係員がその前で待っていた。斉加を始め関係者が揃ったのを確認すると、骨拾いの説明を始めた。まだ、三十代中頃と若い遙の遺骨は、中学の理科室の人骨模型のようにはっきりと骨の形が残っていた。老人の場合には骨まで焼けてしまい殆ど残らない場合もある。白い骨壺に説明通りに骨を代わる代わる納めていき、最後に白い蓋をして係員に渡すと斉加を残して全員ロビーへと移動した。
 ロビーに置かれたソファーに座っても、重苦しい沈黙は継続していた。そこへ遺骨と遺影を持った斉加が戻ってきた。
「みんな、事務所まで帰ろうか」斉加が言った。

 香月は、動物園から日本橋電気屋街に移動していた。時間は間もなく午後四時になろうとしているのに太陽はまだ頭上高くにありアスファルトからの照り返しが容赦なく街ゆく人たちを襲っていた。ここは、日本でも有数の電気の街として知られ、ビル丸々一棟の大型電気製品の小売店が端を競うかのようにセールの広告で彩られ建っていた。
 その華やかな表通りから一本路地を中に入ると、そこには、昔ながらの下町が広がりその一角に、かつての政道会の事務所の二階建てのビルがあった。菱の代紋が掲げられていた場所に今では「管理物件」と書かれた看板が目立つように大々的に掲げられていた。

 火葬場から戻った、斉加以下五人は事務所に設けられた祭壇に、火葬場から持ち帰った遺影と遺骨を祀り改めて一人ずつ線香を上げた。
 
「みんな、今日は、ありがとう」斉加が言った。「組の今後のことやけど、とりあえずここは閉めようと思う。松永の連中もここは知っているからな、その上で相談やが俺は兄貴を殺った奴は地の底までも追いかけ見つけ出し敵を討とうと思うてる。せやけど、俺の思いを無理維持は出来へん。皆の考えを聞かせてんか」斉加の言葉からは、やり場のない無念さが伝わってきた。

「何を言うてんねん頭、水くさいこと言わんとき、俺らも思いは頭とおんなじや。何でも言うてや、親殺されてそのまま言うわけに行くかい。会長の無念は必ず晴らしましょうで」四人の若頭補佐でも、筆頭格の聖治が言った。「そや、聖治さんの言うとおりや、俺らもやります」聖治の声に続いて他の若頭補佐達も同調した。

「そうか、ありがとう。みんなが力を貸してくれるならこれ以上のことはないで。これで俺も百人力や、ほんなんら先ずは犯人特定が先決や一旦散って手分けしようやないか」斉加が組員達に劇を飛ばた。この時から大阪政道会の幹部達は、姿を消して地に潜った。そして、これが、この後に怒る凄惨な殺し合いの始まりだった。

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