片道切符

文字数 465文字

今日、最後の列車に乗る
行先は不明、切符は最初から持っていた
思えば列車に乗ってばかりの人生だった
目が覚めてから眠るまで
飽きることなくレバーを握り
眼前に流れる見慣れた景色に
神経を研ぎ澄ませる毎日
それでもそれが、私の全てで誇りだった

それが、今日終わる

レバーを握れなくなった日
ホームに立てなくなった日
大切な人を亡くした日
独りきりの日々

それが、今日終わる

ゆっくりと開いた扉の向こう
変わるはずのない車内に
一歩踏み出した途端
ふわりと春の風が舞った
乗ったはずの列車から
降り立ったのは懐かしい記憶の中の駅
そしてなにより、目の前で微笑む一人の女性
それは何よりも見知った顔で
最後に見た時よりも
見違えるように若返った彼女が
慈しむように紡いだ言葉
「おかえりなさい」

そうして私は知った
待ち望んでいた終着駅に
自分はとうとう辿り着いたのだと

被っていた帽子を脱ぎ
そっと胸に抱いて私も笑う
そうして『ただいま』と君に告げよう

今日、最後の列車に乗る
行先は“私”という終着駅
切符は生まれた時から持っていた
もう、戻ることはない
それは片道だけの、私の切符
私だけの片道切符

END

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