とあるお山の風車の話 その1

文字数 1,955文字

 町の小高い山の上に、その四台の風車はどっしりと立っておりました。一番右から順番に、ソラ,ダイチ,イズミ,フウタと名前がありましたが、それは風車たちと友達の鳥や風たちの間でのみ使われている秘密の名前でした。

 その日は朝から強い風吹いており、風車たちはぐんぐん羽根を回しておりました。町の人たちも、洗濯物や帽子などが飛ばないよう押えるのに苦労しいました。何故そんなにも風が強かったのかというと、風車たちの下に、風のサブロウが遊びに来ていたからでした。
「サブロウが来ると、いつも風が凄いよね」
「まあ、俺は風の中でもまだまだ若いからな」
 フウタの言葉に、サブロウが胸を張って言いました。
「それに、俺たち風が強く吹かなけりゃ、君たち風車は回れないだろう?」
「なに言ってるのさ。風車が風を捉えて回ってるんじゃないか」
 サブロウの自信たっぷりな態度が気に障ったのか、ダイチが抗議の声を上げました。
「違うだろ。風が吹かなかったら君たちは回れないじゃないか。回らない風車なんて、そこにある意味があるのかい?」
「それはそうだけど…ちょっと酷くないかな?サブロウくん。それに、例え風が強く吹いても、僕らが上手く捉えられなければこの羽は綺麗に回らないんだよ?」
 二人はお互いに顔を突き合わせて睨み合い、噛み合わない言い合いは平行線を辿って行くばかりです。
「違うよ!ダイチは間違っている!」
「サブロウこそ、間違っているよ!!」
「いい加減にしないか、二人とも!!!」
 堪りかねたソラが口を挟むと、二つの視線がソラを見て同時に「だって!」と口を尖らせました。
「そんなに言うなら、裏山の森に住んでいる物知り梟のおじいさんに聞いてみようじゃないか。それで、ケンカはもうなしだからな。いいな?」
 何だかんだで息の合う二人に苦笑しつつ、ソラはそう提案をしました。それにサブロウはひゅーんと口笛を吹き、ダイチはウゥンと羽を唸らせて了承の意を伝えました。
「じゃあ、さっそく呼ぼうか」
 ソラは静かにヒューホ、ヒューホと羽を鳴らし、梟のおじいさんに呼びかけました。すると森からホー、ホーと返事がありました。しばらくすると一匹の大きな梟が、森の上へと姿を現しました。その姿は段々と近づき、ゆっくりと羽ばたきながらちょこんとソラの頭のてっぺんに降り立ちました。
「こんにちは風車たち。それに風の子よ。わしに何か用かな?」
 梟のおじいさんは、首を傾げながら目をパチパチと瞬かせました。
「すみません。わざわざ来ていただいて」
「いやいや、いいんじゃよ。どうせわしも夜まではじっと動かず寝ているだけじゃからな」
 申し訳なさそうなソラに、梟のおじいさんはホッホッホと軽快に笑いました。
「実はこの二人…ダイチとサブロウが、『風が吹くから風車が回る』か『風車が風を捉えるから回る』かでもめていまして……」
「ほほお。それはまた、面白いことでもめておるのう」
 梟のおじいさんは、目を細めて二人を優しく見つめました。
「梟のじいちゃん!風が吹くから、風車が回れるんだよな?」
「違うよね?風車が風を上手く捉えられるから、回るんだよね?」
 梟のおじいさんの鼻先まで詰め寄ったサブロウの言葉に、ダイチが少し離れた場所から抗議の声を上げました。梟おじいさんはくるりと首を回して傾けると、そのままホッホと楽しそうに鳴きました。そうしてくるりと再び首を元に戻すと、コホンと咳ばらいを一つしてきっぱりと言いました。
「どちらも正解じゃな」
「「え!?」」
 梟のおじいさんの言葉に、二人が揃って声を上げました。
「風が吹かなければ、風車は回らん。じゃが、吹いた風を上手く捉えなければ、風車の羽根も回ることはできん。どちらもなければ、どちらも成り立たんのじゃ。つまり、お前さんたち二人の力が揃って初めて意味があるのじゃよ。まあ、そういうことじゃな」
 ホッホと笑って言われた優しい言葉に、二人はお互い顔を見合わせました。何だか言い合いをしていたのがたまらなく恥ずかしくなって、同時に苦笑いを浮べました。そんな二人の様子に、梟のおじいさんは楽しげに目元を緩めました。
「ホッホ。一件落着のようじゃな。さて、わしは巣に戻ってもう一眠りするかのう」
「ありがとうございました。助かりましたよ。僕じゃどう止めて良いものやら……」
「なぁに、これぐらい。いつでも困った時は頼っておくれ。遠慮はいらんよ」
 ソラのてっぺんからバサリと飛び立つと、梟のおじいさんはホッホと機嫌よく鳴きながら森へと帰って行きました。
 それからというもの、もう二人が回る回らないのことでケンカをすることはなく、前以上に仲良くなったということです。

 その町の小高い山のてっぺんで、四つの風車は今でも元気に羽根をぐんぐん回しているのだそうです。

 おしまい

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