99人の子供

文字数 1,047文字

 その村には、それはそれはたくさんの子供を授かった男がおりました。男には4人の妻と99人の子供たちがいました。男は百姓でしたが、99人の子供が手伝ってくれるので、山一つ分ぐらいの畑を持っていました。また、男の家は牛や豚も飼っており、99人の子供が同じぐらい大切に育ててくれましたので、それはもう、草原いっぱいの家畜がおりました。
 そんなスケールの大きな幸せいっぱいの家族に、ある日一人の子の誕生日が近づき、皆でお祝いすることになりました。誕生日が来たのは99人目の一番末っ子の少年でした。男は末っ子を自分の部屋に呼ぶと、にっこりと笑って「誕生日おめでとう」と伝えました。末っ子もにっこりと笑って「ありがとう」と言いました。ところが、男はその後の言葉が続きません。
「どうしたの?パパ」
 末っ子の不思議な声にも、うーんと唸ったきりです。
「……お前、ちょっとここで待っていなさい」
 考えた後、それだけ男は言うと末っ子を部屋に残してキッチンへと向かいました。そこでは二人の妻と10人の娘たちが、末っ子の誕生パーティー用のご馳走を用意しておりました。そんな妻の所へ行くと、男は問いかけました。
「なあ、末っ子って今年で何歳になるんだったっかな?」
 調理の手を止めて、一人の妻が言いました。
「五歳じゃなかったかしら。確か、98番目の子が7歳でその子と二つ違いだったはずだから」
「そうか、そうか。五歳だったな。そう言えば」
 納得した男は末っ子の待つ部屋へ戻ると、改めてにっこりと笑みを浮かべました。
「お前も今年で五歳になるんだなぁ。月日が経つのは早いものだ」
と、さも前から知っていた様子でしみじみと言いました。
「ところでお前、誕生日は何が欲しいんだい?」
「えっとね……僕が欲しいものはね、えっと、一つだけなんだけどね」
 もじもじと話す末っ子に、男は愛しそうにその姿を見つめました。
「なんだい?遠慮せずに何個か上げてごらん?」
 男の優しい言葉に、末っ子は首を横に振りました。
「ううん。一つだけでいいの。でも、僕にとってはとてもとても大事で大切なことなんだ」
「ほお、それほどまでに欲しい物か。一体何だろうね?」
 幸せそうに微笑む男に向かって、末っ子は意を決して口を開きました。
「パパ!僕は自分の名前が欲しいんだ!!もう、“お前”とか“チビッ子”とか、“末っ子”なんて呼ばれるのは嫌なんだよ!!!」

――こうして男は、末っ子の誕生日を迎える明日までに、彼の名前を考えることで頭を悩ませることとなったのでした。

 おしまい

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