パン屋のおじさんと靴屋のおばさん

文字数 1,023文字

 ある所に大きな道を挟んで、パン屋と靴屋がありました。パン屋のおじさんと靴屋のおばさんは大が百個つくほどにお互いを嫌っておりました。そんなわけですから、会えば会ったで取っ組み合いの大ゲンカばかりしておりました。
 そんなある日のこと、靴屋のおばさんが可愛がっている猫がパン屋のパンを一つつまみ食いしてしまいました。怒ったパン屋のおじさんは猫を捕まえてひき肉にしようとしました。ところがその猫は可愛そうなほど痩せていて、本来動物好きなおじさんは黙って猫を保護活動を行っている人の下へと託しました。靴屋のおばさんは軽い物忘れがあり、猫のご飯をここのところすっかりあげたつもりになって、忘れてしまっていたのでした。
 そうとは知らない靴屋のおばさんは、可愛いがっていた猫がいつまで経っても帰って来ないことを不審に思い始めておりました。いくら物忘れが酷いといっても、毎日傍にいた猫が見当たらなければ流石に気がつきます。靴屋のおばさんはパン屋のおじさんを疑い、パン屋から出て来たお客さんを捕まえては猫のことを聞き回りました。そうして何人目かから、パン屋のおじさんが猫にパンを盗まれ怒ってひき肉にしてやると言っていたことを聞き出しました。
 憤慨した靴屋のおばさんは、商品の靴もお店も放り出し、パン屋へと勢いよく殴り込みました。
「よくも私の可愛い猫をひき肉にしてくれたね!!??」
 そう叫ぶと、驚き慌てて誤解を解こうとしたパン屋のおじさんの言葉も聞かず、手にしていた靴の木型で何度も何度もおじさんを殴りました。
「靴屋さん!あんた、なにをしているかね?!猫なら、あんたがご飯を忘れるあまり可哀そうなぐらいガリガリになっていたから、パン屋さんが猫を保護してくれる人に託したよ!食品を扱う店じゃ猫は面倒見れないからって!!!」
 その場にいたパン屋の常連さんに止められて、おばさんはやっと血だらけの殴る手を止めました。
「……え?」
 けれども気がついた時には、パン屋のおじさんはピクリとも動かず頭から血を流して死んでしまっておりました。
 そういうことですから、二つのお店は同じ時期に二つとも閉店する流れと相成りました。それからというもの、元靴屋のおばさんはケンカをする相手も、可愛い猫も失ったまま、独り寂しく病室の窓からぼんやりと外を眺めて過ごしたということです。
 ちなみに元靴屋の猫は、新しい飼い主に引き取られ、幸せな一生を過ごしたそうな。とっぴんぱらりのぷう。

 おしまい

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