最高の結末

文字数 768文字

 目を覚ますと、辺りは真っ暗だった。
「……うん?あれ?なんだっけ……」
 ぼんやりとする頭をフル回転させて、直前までの記憶を呼び覚ます。
 確か、あいつが急に踊り出して、俺もそれに巻き込まれたんだ。あいつが今ご執心の、歌って踊れるアイドルみたいな兄ちゃん。そいつが画面に出て来て、音楽が鳴り出したらもう、あいつは俺の存在なんて忘れたみたいに踊り出しちまったんだ。
「なんてこった、後少しだったのに……」
 思わずため息がもれた。
 こうなってはもう、俺に残された選択肢は二つだ。ここで朽ちるか、あいつが俺を探し出してくれるのを待つかの二択。……ああ、いや。もう一つあったな。探し出された後、即処分があった。上げてから落とすなんて、最も最悪な結末だ。
「俺もここまでか……」
 湿っぽくなった体を転がし仰向けになってみる。背中に感じるふんわりとした毛足は、絨毯か何かだろうか。ならば部屋の中であることは確かだ。しかし、やはり視界に広がるのは真っ暗な闇で、心なしか埃っぽい気もする。これはもう、朽ちるか最悪の結末の二択にしかならないかもしれない。
 そう思って覚悟を決めた時、何かが俺の体を両側からギュッと挟んできた。それは、強くも優しい力で俺を光溢れる世界へと連れ出してくれる。眼前に広がったのは意識を失う前に見たものと同じリビングルームの景色と、こちらを嬉しそうに見つめる幼いあいつの顔。
「みーつけた!」
 そう言うと、あいつは小さな口を尖らせフッと俺に息を吹きかけた。
 ぱかりと開いた口の中へ、俺は満願の思いで力を抜いた小さく丸い指から自ら滑り落ちる。
 俺はボーロ。タマゴボーロ。丸い体に優しい甘み。蕩ける触感と思いやりをのせて、一時の至福を皆に届けるお菓子。それが俺の、俺たちの生まれて来た使命。
 最高の結末に、俺は喜びの中でふわりと溶けた。

 END

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