緑の絨毯

文字数 744文字

 ある日少女が絨毯を編みました。それは、少女が初めて編んだ真夏の木々の色の絨毯でした。
 板張りの床がむき出しになっていた自分の部屋に、少女はその絨毯を敷きました。すると少女の部屋は、まるで緑の葉の生い茂る草原のようでした。少女はとても嬉しくて、お母さんにも友達にも見せました。
 ところがその日の夜、少女がそろそろ寝ようと自分の部屋へ行くと、絨毯の角が四つとも全て解れてしまっておりました。しかし少女は初めて自分で作ったものだから、仕方がないだろうと思い気にも止めず眠ってしまいました。
 次の日、少女が目を覚ますと絨毯の角が全て丸くなっておりました。少女は「どうしてかしら?」と不思議には思いましたが、特に気に止めることもなくその日は過ごしました。
 しかしその日から、朝目覚める度に絨毯がどんどん狭くなって行きましたが、原因が全く分からず手の施しようがありません。そうしてとうとう、残る絨毯が四分の一だけになってしまった頃に、少女は焦りの余り渾身の力を込めて絨毯を上下に振りました。すると、ぽとりと一匹の青虫が床の上に落ちました。なんと、絨毯を小さくしていたのはたった一匹の小さな青虫だったのです。
 驚いた少女でしたが、青虫をそっと窓から外へ離してあげました。けれども少女の緑の絨毯が、元に戻ることはもうありません。初めて編んだ絨毯だけに、悲しくて切なくて、少女は少しだけ涙をこぼしました。けれども直にその涙を拭うと、再び絨毯を編み始めました。少しずつ、少しずつ。けれども確実に大きく前よりも素晴らしく出来上がっていく絨毯に、そっと少女は笑みをこぼしました。
 あの青虫が蝶になり、風に乗って再び訪れる頃には、以前よりも美しく素敵な絨毯が彼女の部屋に色どりを添えていることでしょう。

 おしまい

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