みれにあむ・いん・かみさま

文字数 2,212文字

 村が出来てから今年で二千年。そこで他の村を真似て、その年を『みれにあむ』と呼ぶことに決めました。ところがその村の東に住む土地の守り神様は、村人たちが自分に何の相談もなく祝い事を決めたことに、大層ご立腹でございました。
「全く、私を除け者にして楽しそうな事をするとはけしからん!ちょっと懲らしめてやろう!!」
 そう決めると、神様お社から飛び出し村へと向かいました。
 そうとは知らない村人たちは、祝の祭りで大騒ぎしておりました。その様子に益々臍を曲げた神様は、手近な家から順々に悪さをし始めました。ある家では数えても数えても豆の数が合わないように、またある家では冬でもないのに井戸を凍らせて飲むことが出来ないようにしてしまいました。なんともまったく、地味に困る嫌がらせの数々です。
「ふん!いい気味だ。そのまま少し困っておれば、私を蔑ろにしたことを悔やむだろう」
 突然起きだした不可思議な出来事に、村は大混乱に陥りました。そんな村人たちを一瞥すると、神様は少しすっきりとした気分でお社へと帰って行きました。
 さて、困ったのは村人たちです。皆で村一番の庄屋の家に集まると、膝をつき合わせて頭を悩ませてしまいました。せっかくめでたい年だというのに、こうも悪い事が続いたのでは堪りません。しかし原因についてあれこれと話し合ってみましたが、誰一人として分かりませんでした。それもそのはず。だってその原因が神様によるものだなんて、誰が考えるでしょう。村人たちがほとほと困り果てていた時、ドンドンと控えめな戸を叩く音が響きました。
「はいはい、只今」
 庄屋の女中さんが戸を開くと、そこには一人の僧侶が立っておりました。
「突然の訪問申し訳ない。今年、二千年を迎えた村はこちらだろうか?」
 落ち着いた口調で尋ねる僧侶に、奥から顔を出した庄屋さんが近寄りながら頷きました。
「へえ、そうでございますが……。旅のお坊様とお見受けしますが、うちの村に何かご用でございましょうか?」
 戸口の不思議な遣り取りに、集まっていた村人たちも訝しげな表情を浮かべて庄屋さんの背後に寄ってきました。そんな村人たちをぐるりと見渡すと、僧侶はシャラリと持っていた錫杖を鳴らしました。
「様子からして、どうやらこの村でも不可思議な現象が起きているようですね」
 僧侶の言葉に、村人たとは驚きながらも縋る気持ちで何度も頷き返しました。
「まったくその通りでございます!しかし、どうしてお分かりに?」
「実はこう言った区切りのよい年には、必ず不可思議な現象が起きることが多いのです。私はそのような現象を鎮めて回っている者です」
「そうだったのですか。それは有難い!どうか、私たちの村も鎮めて頂けないでしょうか?お願い致します」
 僧侶の話にパッと顔を明るくした庄屋さんは、丁寧に頭を下げました。それに習うように、次々と頭を下げた村人たちに、僧侶は笑みを浮かべて頷きました。
「もちろんです。ところで、この村の土地様はどちらにいらっしゃいますか?」
「ああ。それなら、村の東に小さなお社がありますが……まさか、この現象は全て神様の仕業とおっしゃるのですか?」
「その通りです」
 きっぱりと言われ、庄屋さんは目を丸くして驚きました。まさかこの不可解な現象が神様のせいだなんて、思いもよらなかったのですから無理もありません。
「なんと!そのようなことが、あるものなのですか?私たちは、きちんとお供えしておりますし、お社の清掃も欠かしたことはございません!」
「それでは、今回の二千年を祝う祭事に付いてもきちんと報告されたのでしょうか?」
「いえ、それはまだ……。祭の準備が整い次第、ご報告をしようかと思ってましたけど……」
 戸惑いながら答えた庄屋さんの言葉に、僧侶は暫く考え込んでから「わかりました」と一つ頷きました。
「おそらく、今回の件は全てその神様の仕業でしょう。初めに二千年この村を守って来た神様に、感謝と報告を怠たり機嫌を損ねたことが原因です。遅くはありません。今からその社へ行き、報告が遅れたことを謝罪し改めて感謝の意を示すべきです。そうすれば、きっと今回の現象は収まる筈です」
「なんと、そういうことだったのですか……。祝い事に浮かれる余り、一番大切な村の守り神への感謝の意を示すことを忘れてしまうなんて!大変失礼なことをしてしまいました……」
 その場にいる皆の顔を見渡し諭す僧侶に、庄屋さんが肩を落として言いました。しかし直に奮い立つと、村の皆へと指示を飛ばしました。
「いいや、こうしてはおれん!皆、すぐに神様へお供え物を持ってお社へいくぞ!!」
 そんな庄屋さんにつられるように、村の人々も頷き俄かに騒がしくなりました。
 そうしてたくさんのお供え物を手に、僧侶と共に東の泉の畔にあるお社へと向かいました。お社の前にお供え物を並べて供え、今回のことを謝り、いつも村を見守ってくれていることへの感謝を示しました。続いて祭を行うことと、記念としてこの年を『みれにあむ』と名付けることを報告しました。するとどうでしょう。今まで起こっていた不可思議な現象が嘘のようにピタリと止んだのでした。
 何事も新しきを喜び、浮かれ過ぎて昔からの行いを忘れてはいけないとうことを村の人々は心に刻みました。それ以降、常に土地神様に感謝し、初めてのことは何でもきちんと神様に報告してから行うようになったとのことです。

 おしまい

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み