永遠の探しもの

文字数 1,293文字

 ある所に、永遠を探して旅をしている男が一人おりました。なぜ男に永遠が必要で、それを探しているのかは誰も知りませんし、誰も訊ねようとも思いませんでした。なぜなら誰もが、男の話を信じていなかったからです。だから男はいつでも一人で、大きな荷物を背負って旅を続けておりました。
 北に永遠の薬があると聞けば山を越えて北へ行き、東に永遠の呪術があると聞けば砂漠を渡って東へと行きました。男はそれがどんなに辺鄙な場所にあろうとも、大きな荷物を背負って平然と歩き続けるのです。そうして苦労して辿り着いても、いつもその場所に男の探す永遠はありはしませんでした。
 そんなことを繰り返す事数百回。男はとうとう力尽き、干乾びた大地の上へと倒れ込みました。そうして男は、誰に知られることもなくその場で息を引き取りました。
 それから幾日、幾年と年月が流れ、干乾びた大地も草の生い茂る草原へと姿を変えました。そんなある日、一人の少年がその草原を通りかかりました。ふと目に止まった黒い塊に足を止めてそちらへ歩み寄りました。それは、ボロボロに朽ち果てながらも、なんとか形を保っていた大きなリュックサックのようでした。そう、男が大事に抱えて旅をしていた、あの荷物です。不思議に思った少年は、恐る恐るその蓋を開けてみました。しかし、見た目に反し中には何も入っておりませんでした。男が集めていた“永遠”はどこにもありません。
 それから数日して、何の前触れもなく太陽が黒く小さくなって死んでしまいました。太陽を失っては地球上の生物は生きて行けません。
 連日告げられる『地球終焉』『人類滅亡』のニュースに、あらゆる都市のあらゆる人々がパニックになりました。ある者は神に祈り、ある者は最後の晩餐とばかりに散財し、ある者は絶望の果てに自らの命を絶とうとしました。
 その時です。一筋の光が、地上から空へと走りました。それはやがて一つの光の塊となり、大気圏を抜けて真っ暗な宇宙を駆け抜け、黒く小さくなった太陽へと飛び込みました。同時に黒かった太陽が眩い光に包まれ、永久の闇を纏う宇宙を白く染め上げました。その光が段々と治まった先にあったものは、煌々と力強く燃え盛る太陽の姿でした。
 光が飛び出した先にあったもの、それはあのボロボロのリュックサックでした。今はペシャりとしぼみ、役目を終えたとばかりに蓋を放り出して横たわっておりました。男の集めていた永遠は、確かにそこにあったのです。そしてその永遠は、終わりを告げた太陽に再び命を吹き込んだのでした。
 しかし、そんな男の努力を知っている人は誰一人としておりません。名も呼ばれず、誰の記憶にも残らないそんな男のボロボロのリュックサックを、拾い上げる小さな手がありました。それは、リュックサックを見つけたあの少年でした。
 少年は全てを見ていました。光が飛び出し太陽へ飛び込んだことを、たった一人彼だけが知っておりました。少年はそっとリュックサックを抱き締めて、小さく、でもはっきりと呟きました。顔も名前も何も知らないこの鞄のもち主に、心から「ありがとう」と。

 END

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