サンタクロースになるために

文字数 1,352文字

 僕には世界で一番なりたい職業がある。それは、赤い服に真っ白な髭を生やし、トナカイの引くソリに乗ったその名も“サンタクロース”。子供たちにプレゼントを配って、クリスマスの夜空を翔る…こんな素敵な仕事なんてちょっと他にはない。だけどどうしたらなれるのか…その方法は教科書にだって書いてなかった。個人的にはサンタクロースのおじいさんを捕まえて、弟子入りすればいいんじゃないかと思っている。思っているのだが、肝心のそのおじいさんが捕まえられないのだ。
「――そこで考えたんだけど、クリスマスの夜に枕元に罠をしかけるとかどうだろう?」
「いや、どうだろうって言われても。大体、お前の枕元にはもうサンタのじぃさんこねぇだろ?」
 図書室から借りて来た『世界の罠大全集~これで今日からあなたも罠王~』を片手に訊ねれば、盛大なため息と共に呆れたような哀れまれているような視線が目の前の席に座る友人から返ってきた。それにむっとして、持っていた本を力いっぱい机の上へと叩きつける。響いた音と同時に、驚いて後ろへのけぞった友人の鼻先数ミリメートルへ勢いよく人差し指を突きつけた。
「甘い!甘いぞお前!中学生だからこない?はっ!お前の場合は、普段の行いが悪いせいだろ?俺のところはまだ来てくれるぜ?!」
「……はぁ?お前、まさかまだサンタのじぃさんは存在するとか思ってんの?」
「へ?当たり前だろ?」
 胸を張って言い切った俺に、何故か友人は額を押さえてがっくりとうなだれてしまった。
 な、何々?俺、何か変なこと言った?心なしか、周囲の視線も痛い上に少し引き気味なのは気のせいだろうか?
 そう思って首を傾げた僕の肩を、がしりと友人が掴んできた。
「……わかった。なら、罠を仕掛けてみろ。いや、罠なんていらないか。ただ、寝たふりでもしてろ。それで、人の気配がしたら飛び起きりゃいい。そしたら、サンタの正体がわかるから」
「は?正体とか、サンタクロースはサンタクロースに決まってるだろ?……まあ、言われなくてもやるけど」
 可哀そうなものでも見るように言う友人に、思いっきり顔を顰めてそう返す。
 友人はただ肩を竦めて首を横に振るだけだった。まったく、失礼な奴だな。

――来たる十二月二十五日の夜。僕は作戦を決行に移した。
「……」
「……」
 そうして仕掛けた罠にかかり逆さ吊りになった人物と二人、無言で見つめ合う。
「……やあ」
「……なんで、父さんが罠にかかってるの?」
 眉間に皺を寄せて訊ねた言葉に、父の視線が彷徨う。
「それは…その……」
 そこで僕はハッとして手を打った。
「そうか!僕の父さんこそ、サンタクロースだったんだね!?なんてことだ、こんな近くに憧れの職業をする人がいたなんて!!!」
「……え?」
 僕の叫びに、父さんの目が点になる。しかし、そんなことに構ってなどいられない。
 サッと姿勢を正して正座をすると、逆さ吊りの父さんの前に指を揃えて両手をつき頭を下げた。
「どうか僕を父さんの…いや、サンタクロースの弟子にして下さいっ!!!!」
「はぁっ?!」
 渾身のお願いに、父さんの困惑した叫び声が部屋中へと響き渡った。
 今更隠そうったってそうは行かない。子供たちに夢を届ける素敵な職業――サンタクロースになるために、何が何でも僕は弟子になるんだ!

 END

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