鍵1

文字数 481文字

『鍵なんて初めっからなかったよ』
「でも、そこに鍵穴はありますよ?」
『鍵の形をしているからって、それが鍵穴だなんて決まっちゃいない』
「でも、それはドアですよね?」
『取っ手が付いているからといって、それが開くとは限らないさ』
「でも、あなたはそこからこちらへ来たのでしょう?」
『誰がそんなことを言ったのかは知らないが、俺はずっとこっちの方さ』
「でも、最初はここにはいなかったでしょう?」
『生まれてこの方、ここ以外にいた覚えはないね』
「なら、やはりそれは鍵穴ですね」
『あんたは一体、俺の何を聞いていたんだ?鍵なんて初めっからなかったって言っただろう?』
「確かに、あなたにとってはそれが一番かもしれない」
『俺は生まれた時からここにいるんだ。けれども鍵なんて、見たことなんて一度もないんだ!』
「確かにあなたには見えないかもしれないし、生まれた時からここにいたのでしょうね」
『あんたは一体、何が言いたい?!』
「僕の言いたいことはたった一つです。このドアを開けてください、“出口の鍵”さん?」
 そうして笑う僕の前で、騒がしい彼はしゅんとなって、小さな小さな鍵になった。

 おしまい

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