【7】-12
文字数 2,294文字
「こんな化け物が…」
採掘マシンを初めて目の当たりにしたガリーは、プールの前に立ちはだかった巨躯を見上げ、息を呑んだ。
しかし、すぐに気を取り直し、大量の大気レンズを作り出して、脚の関節に次々に光弾を打ち込む。が、細い煙が上がっただけで、ほとんどダメージを与えられない。採掘マシンがガリーに迫り、シャベルバケットを叩きつけようとする。
「“曲率極大”!」
ガウスのロゴスでアームの軌道がわずかにずれ、直撃は避けられたが、その風圧でガリーはステージを転がり、奥に積まれていた音響装置類に頭から突っ込んだ。
エルミンがガリーに追い打ちをかけようとするのを見て、マイクがファラデー・ディスクを投げつけながら、エルミンに向かってプールサイドを駆ける。
「“コールド・サン”!」
あふれ水で水浸しになったプールサイドが凍り付き、足をとられたマイクが転倒した。膝を抱えて苦しむマイクに、エルミンがランチャーを向ける。
「“ガウス投射”!」
ガウスが放ったロゴスがマイクをとらえ、プールサイドの氷面にその姿を映し出す。エルミンが撃ち込んだ音響波が彫像化したマイクを直撃するが、ダメージを与えられない。
「“
ハーシェルに向かってザックが指を振り上げた時、3本爪でコンクリートブロックをつかんでいた採掘マシンが、ザックにそれを投げつける。ザックは体を引いて投擲をかわしたが、床に当たって砕けたブロックの破片が脇腹に食い込み、その場に崩れ落ちた。さらに、ザックを助けに行こうとしたガウスも、エルミンの音響攻撃を食らい、胸を押さえて倒れ込む。割れたメガネが床に跳ねる。
エントランスのドアからセンタープールを見つめていたカーラは、採掘マシンが現れると、四葉に頼んだ。
「無理を言って本当にすいませんが、ガリーさんの顔が見えないので、もう少しだけプールに近づいてもらえませんか」
「でも、採掘マシンが乱入してきています。今近づくのは危険すぎます」
「そうだよ、カーラ。もう中に入ろう」とダーナも引き留める。
「危険なのはわかってます。でも、どうしても見ておきたいんです。
シバさんまで巻き添えにするわけにはいきませんので、プールサイドに私を置いたら中に戻ってください。私はもう死んだも同然ですから、気にしなくて大丈夫です」
必死にすがる目を見て、突っぱねるわけにはいかなくなる。
「わかりました。プールサイドにもう少し近づきます。でも、あなたを置き去りになんかしませんから」
「ありがとう…」
標的にされないように四葉が腰をかがめながらカーラを運び出すのを見送ったダーナが戦線を見ると、目を離している間に味方が崖っぷちまで追い詰められている。
「何とかしなきゃ」
ダーナは、腕の痛みを堪えていったん屋内に入り、舷側に近い別の出口から顔を出す。
エルミンが、倒れたガウスを仕留めようとしている。ダーナは無事な方の腕で戸口からエルミンにロゴスを放つ。突風にあおられたエルミンが、体勢を崩した。
その時、3度目の爆発が起きた。今回は、下から突き上げるような衝撃が襲い、立っている者は全員その場に倒れ込む。
ザックに向かって2本のアームを振りかぶっていた採掘マシンも、体を大きく
こいつを船から叩きだすのは今しかなかった。しかも、自分は今、ちょうど大蜘蛛の真横にいる。この角度なら、バキュームユニットにも邪魔されずに済む。
「ザーック!」
ダーナは大声でザックに呼びかけてマシンを指さし、彼女の狙いを察したザックが床に腹這ったまま、「“
採掘マシンの脚がデッキの床からふらりと離れる。
「“ベルヌーイ・ルール”!」
大風が吹き、マシンが一気に舷側に流される。マシンはアームを伸ばし、崩れたウォーキングトラックから突き出ている鉄筋に3本爪をかろうじて引っかけた。が、鉄筋がへし曲がり、爪が滑る。
あとひと息。
ダーナがとどめのロゴスを撃とうとした時、どこからか声が響いた。
「“オイラー線移動”!」
自分の意志とは関係なく体が傾き、折れた腕を戸口に打ち付けてダーナは呻いた。鉄筋をつかみ直した採掘マシンが、ドリルのついたアームでウォーキングトラックのコンクリを削り取って、ザックの上にばらまく。それをザックが引力反転ロゴスでかわした時、最後のチャンスが潰えた。
採掘マシンは地響きを立ててデッキに着地し、ギシャギシャと薄気味悪く足を踏み変えながら体を回転させる。アームを伸ばし、ダーナを握り潰そうと3本爪を開いた。
3度目の爆発に襲われた時、四葉は倒れ込み、顔を床に打ち付けながらも両腕を上げ、カーラを落とすまいと踏ん張った。おかげでカーラの体が床に触れることはなかったが、深い傷を負った体が腕の中で跳ねた。
カーラは両手で体を抱きしめて痛みに耐え、気力を振り絞って薄目を開けた。採掘マシンがダーナに迫ろうとしている。
懸命に首を巡らせて周りを見渡す。
そしてカーラは、どうしても見たかったものをついに見つけた。
「シバさん、ありがとう。ここで降ろしてもらえますか?」
切れ切れの息の下で四葉に願い出る。
「え?」
「最後は自分の足で立ちます」
四葉がカーラを下ろし、肩を支えると、カーラは震える足でデッキに立った。血を滴らせながらプールサイドの寝椅子の背につかまり、まっすぐに前を見つめる。