【6】-20
文字数 1,143文字
ガリーはショップのワゴンや観葉植物に身を隠してハーシェルの目をくらまし、何とか反撃に出ようとするが、相手はその隙を与えない。
客室デッキまで来ると、もう隠れられるのはキャビンの中しかなくなるが、部屋に入るところを見られたら即、雪隠詰めだ。ハーシェルは徐々に距離を詰めていき、廊下に放置されたバゲージカートの荷物の陰からガリーが飛び出したところにロゴスを撃ち込んだ。
が、その瞬間、突如廊下のスプリンクラーが作動し、水をまき散らす。コールド・サンはガリーに届く直前で、その散水をとらえてしまい、細かな
スプリンクラーを避けながら廊下を進むが、すでにガリーの姿はない。
「どれかの部屋に隠れたか」とハーシェルは呟くが、すぐに思い直し、
「と見せかけてか。客室デッキでは到底勝ち目のないことは、奴にもわかっているだろう」と笑みを浮かべる。
ハーシェルは、廊下の分岐点に向かい、そこから左舷のアウトデッキに出た。
壁に張り付いて屋内を窺っていると、案の定、廊下の角からガリーが現れる。ハーシェルはデッキの出入口に立ちはだかり、ガリーに向かってタクトを振り下ろそうとしたが、ふとその手を止めた。
「奴の周囲の景色が歪んでいる。見飽きたロゴスだ。そして、実体は——」
廊下の反対の角から、消火器らしきものを抱えてガリーが出てきた。床を蹴って飛び上がると、そのままの勢いで空中を突進してくる。
「慣性貫徹か。それも見飽きた」
ハーシェルは再びタクトを構え、ガリーを十分に引き付けてから振り下ろした。
「“コールド・サン”!」
ところが、宙を進むガリーの体が突然浮かび上がり、放ったロゴスが空を切る。
「なに?」
天井近くで消火器を構えたガリーは、たじろぐハーシェルの顔めがけて、ホースを突き付けた。
「こいつを食らえ!」
が、その時、もの凄い衝突音が響いて船が激しく揺れ、ガリーは消火液をまき散らしながら天井に激突する。
ハーシェルも、その揺れに吹き飛ばされて、アウトデッキを転がった。
衝突の揺れが収まったころ、ガウスが他の乗客とともに虚数空間から戻ってきた。場所は先ほどとほぼ同じ。
ガウスはあたりを見回し、
「場所も時間も大体想定した通りだ。船も停まってる。
しかし、右舷の救命ボートは全滅だろうから、左舷に賭けるしかない」
左舷のボートデッキに行ってみると、幸い救命ボートもボート
「小田島さん、ボートを操船できますよね」
「もちろんだ」
「小野君、小田島さんと一緒に乗客の避難をサポートしてくれ」
「わかりました。ガウスさんは?」
「僕はこれから…」
空を見上げたガウスの言葉が、途中で立ち消えた。