【4】-6
文字数 1,533文字
それを見た誰もが、マクスウェルの悪魔の仕業だと思った。ところが、当のマクスウェルも、目を丸くしてその光景を見つめている。
戦いも忘れ、全員が凍り付く中、アームはさらに大きく身震いし、土に埋まった先端を自ら引き抜こうとするように斜面からせり出し始めた。そして、もう少しで全部抜けると思われた瞬間、アームが矢のように撃ち出され、それが刺さっていた斜面の穴から、大量の土砂が轟音を立てて噴き出した。その噴射は収まることなく続き、滝のように掘削孔の奈落に注ぎ込まれていく。
それを見て、最初に動いたのはエルミンだった。
「とうとう始まったか。ここももうおしまいだね」
そうつぶやくと、足場の2階に駆け戻る。
マクスウェルが手を差し出して、エルミンを引き上げた。
「島の腹が裂けたみたいだね。君が資源探査の折に報告してくれた通り、建設着工前よりかなり地下水位が上がっているようだ。採掘を急いで正解でした。ここらで店じまいにしましょう」
四葉がフェンス際を回って、みんなのところに戻ってきた。
「いったい何が起きてるんです?」
ガリーが眉をひそめ、
「どうやら液状化現象が起きたらしいな。もともと懸念の声はあったんだ。軟弱地盤をいくら改良したところで、ものには限界がある。そもそもリゾート開発には向かない土地だったってことだ。ぼやぼやしてると地盤沈下が始まるぞ」
クリスとともに駆け寄ってきたザックが、その言葉を聞いて、
「では、最後に一仕事しましょう」
敵陣に向き直り、ロゴス発動の構えに入った。
それに気づいたハーシェルたちが、急いでフックを足場に掛け直そうとするが、
「そのままで」
マクスウェルが3人を制止する。
「
敵勢4人は再び宙に浮き始めるが、今回は彼らをつなぎとめるものもなく、フェンスを背にどこまでも上昇していく。
マクスウェルが両手をラッパの形にして口元に添え、大声で言った。
「相手の偉能を利用するっていうのは、効率的でいいアイデアですねー。僕も真似をさせてもらいますよー」
「偉能を利用する? 一体何を言っとるんです?」
マイクのつぶやきが終わらないうちに、聞きなじみのあるローター音が響き渡り、紫マントの男が乗る機体を先頭に3機のドローンカーがフェンスの上に姿を現した。
ザックがロゴスを解除する間もなく、各機からロープが投げ渡され、敵の偉能者たちは、受け取ったロープを手繰って素早く機内に乗り込む。ローターの回転速度が急上昇し、ドローンカーは機体を前傾させてフェンスを離れていく。
最後尾のフランクリンがニヤリと笑い、ベースボールキャップに2本の指を当てて、敬礼を送ってよこした。
ガリーが歯ぎしりし、
「このまま逃げ切れると思うなよ」とスマホを取り出す。
「阿久根市長から難波コントロールに手を回してもらって、レーダーでドローンカーの行き先を突き止めよう」
RMAに連絡しようとスマホを操作するが、強烈な電磁波にさらされたせいで使い物にならなくなっている。他のスマホも同様だった。
「くそっ、ホテルに戻ろう」
全員揃って出口に向かい、その途中に落ちていたメディカルバッグを四葉が拾おうとした時、通用口のドアが開いた。アカデミーの雇われ作業員はとっくに逃げ出していて、今さらここに戻ってくるはずがない。
みんな足を止めてドアを注視する。
入ってきたのは、片手で傘を差し、片手に消火器を提げた人影。
「雨は上がったのか。お、女子たちが幸運をもたらすと言ってた二重の虹も出てる」
傘を下ろして空を仰いだその顔を見て、四葉は息が止まるほど驚いた。