【3】-4
文字数 2,433文字
デジタル化によって、カジノの風景はゲームセンターに近づいているが、大きく違うのはカジノが1日何十万ドルもの金を客から吸い上げる集金マシンだということだ。
奥に進むと、ブラックジャックやバカラ、ルーレットが連なるテーブルゲームのゾーンに入る。特にドレスコードは設定されていないようで、カジュアルな服装の客も多い。
ルーレットテーブルには、都合よく4人の先客がいたので、一行はしばらく
5ゲームほど見学したところで、ガリーとザックがキャッシュをカラーチップに交換し、テーブルに近づく。ガリーが赤にチップを1枚置き、ザックは黒に置いた。
ホイールがゆっくりと回り始める。球が投げ込まれ、ボールトラックを転がり始めた。
ガリーはそれを2、3秒注視し、ルーレット盤の並び番号の3か所、17、5、22に1枚ずつチップを置く。
ザックが眉を上げ、
「奇遇ですね」と言いながら同じところに1枚ずつチップを置いた。
ディーラーが2度ベルを鳴らした。
「ノーモアベット」
球はトラックを滑り落ち、最後に17・5・22の周りで1、2度跳ねてからポケットに収まった。
「17」
シングルナンバーベットは35倍で、チップは差し引き33枚。
受け取ったチップにガリーがキスする。
「マンマミーア! いきなり来たねー。ママの誕生日のナンバーに賭けて大正解だ」
後ろで見ていたマイクが小さく拍手した。
すぐに次のゲームが始まる。
ガリーは、さっきと同じように赤に1枚置いて球が投げ入れられるまで待ち、今度はチップを2枚ずつ、並び番号の12、8、19に置いた。
「今度はパパの誕生日だ」
「私もそのラッキーナンバーに乗りましょう」
そう言って、ザックも同じナンバーに2枚ずつベットする。
球がポケットに収まった。
「8」
チップは差し引き67枚。
「なんて息子想いのパパなんだ! よーし乗ってきたぞ。次は姉貴の誕生日にするかな」
2人とも18、6、21に3枚ずつ賭け、球は18にポケットイン。さらに、次も3つのナンバーに4枚ずつ張り、再び的中させる。
ルーレットテーブルの客たちがどよめき始め、通りかかった人も足を止める。
次のゲームが始まると、何人かの客が手にチップを握ったまま、回り始めたルーレット盤も見ずに、ガリーの挙動を見守る。そして、ガリーが3、24、36にベットすると、こぞって同じ場所にチップを置いた。
「おいおい、ただの偶然が続いただけだぜ。外れても恨みっこなしだよ」
ガリーが客たちを見回して予防線を張る。
「ノーモアベット」
ポケットエリアに転がった球は、今度もガリーがベットした並び番号のあたりを跳ね回る。客たちは固唾をのんで見守るが、3に入りそうになった球が最後に妙な跳ね方をして、1つ手前の15に収まった。ガリーに乗った客たちから一斉に落胆の声が上がる。
「ほらね、言わんこっちゃない」
周りに言い聞かせるようにつぶやきながら、ガリーはザック、マイクと目を見かわした。
「ラッキーナンバーというのはもうないんですか?」とザックが聞くと、ガリーが、
「ないこともないが…。じゃあ最後の一勝負といくか。10枚賭けだ」
ホイールが回り始め、ガリーは宣言通りチップを10枚ずつ、1、00、27に置いた。他の客も恐る恐る同じナンバーに少額をベットする。今回ザックは
カラカラと音を立てながら走っていた球が、ボールトラックから滑り落ちていく。デフレクターに当たって1度大きく跳ねた後、球は1、00、27に近づくが、今回も最後に急に失速した感じで手前のポケットに飛び込みかける。
その時、ザックが口の中で何かつぶやいた。
球は一瞬浮き上がったようになり、直後に00に吸い込まれた。
00に張った客たちがガリーの肩や背中を叩いて喜び、ディーラーは驚愕の表情でガリーを見る。
「亡くなったフィレンツェのばあちゃんの導きだ! あんたの誕生日は最強のラッキーナンバーだよ」
大げさにはしゃぎたてるガリーに、ザックが小声で一言。
「この前、そのおばあさんの手料理を早く食べに行きたいって言ってませんでしたっけ?」
ガリーとザックのカラーチップをカジノチップに交換すると、かなりの額になった。
「結構稼がせてもらったが、さてこれをどうするか。
君はまだ子供がいる歳には見えないが、子供は好きかい、マイク?」
「ええ、まだ結婚もしとりませんが、子供は好きです。ファラデーも子宝には恵まれませんでしたが、子供が好きだったですな」
「ファラデーは確か、クリスマスシーズンに子供たちを王立研究所に招待して科学の講義をしていただろう? ロウソクを使った実験だとか、ファラデー・ケージの実験だとか」
マイクは大きくうなずいて、
「まともな教育を受けることができなかった自分のような子供を1人でもなくしたいという思いもあったんでしょうな。私のロゴスも、そのクリスマス・レクチャーの記憶とともに覚醒しました。
講堂に集まった子供たちが目を輝かせて、ファラデーの実験をワクワクしながら見つめていた」
マイクは記憶をいとおしむように穏やかに微笑む。
「素敵な光景だな。
入口にユニセフの募金コーナーがあった。よければこれを寄付してくれ」
ガリーが稼いだチップのほとんどをマイクに差しだす。
ザックもチップを山盛りにして、
「差し支えなければこれもどうぞ」
クリスマスの電飾が全灯したように、マイクに明るい笑顔が灯った。