【6】-16
文字数 1,426文字
だが、オーシャンビューホールに7~8メートルまで近づいた時、カーラが叫ぶ。
「敵は3室先、右側のキャビンにいます!」
その言葉通り、ライヒがキャビンから飛び出し、四葉にクラウドバスターを向けた。四葉が室内に駆け込むのと同時に、廊下に放置されていたサービスワゴンが跳ね上がり、大きな焦げ穴が開いた。
カーラの警告がなければ、自分がああなっていたところだ。
四葉は、廊下の向かいの部屋に隠れたカーラに頷いて、無事を知らせる。
「また会えて嬉しいよ、カーラちゃん。
でも、いけずだなー。お邪魔虫君に早く消えてもらって、2人で豪華客船の旅を楽しもうと思ってたのに」
「今まで何人の女性に同じことを言ったんですか?」
「さあ、忘れたな。でも君は特別な女性だ。頭の中がすっからかんの女の子たちと違って、リビドー解放の効用や方法論について、じっくり語り合えるからね」
「語り合うだけでいいんですか?」
「おっ、実践もお望みかい? 嬉しいねー」
ライヒがこのまま突っ込んできたら逃げ場がない。カーラが時間稼ぎをしているうちに、何か手を考えないと。
視線をさまよわせているうちに、廊下のあるものに目が留まった。
四葉は後ろに下がって、棚の上に置かれた電気ポットをつかむ。そして、それを部屋の入口の上の方から、ライヒの声のするあたりに放り投げた。
ライヒが即座にクラウドバスターを撃つ。放射されたオルゴンエネルギーがポットを吹き飛ばしたが、ついでに廊下の天井も焼き焦がし、スプリンクラーが作動する。消火水をもろに浴びたライヒが1歩引いた。
その一瞬を狙い、四葉は乗船に備えて用意した船舶信号弾を握って廊下に飛び出し、ライヒの頭めがけて信号弾のピンを引き抜いた。信号弾が煙を上げて発射されるが、ライヒは首を横倒ししてそれを避けた。
信号弾は廊下を突っ切り、オーシャンビューホールの奥の壁に激突して炎を上げる。
ライヒがにやけ笑いで、
「なかなかいいプランだが、狙うんなら頭じゃなく腹を——」
クラウドバスターを構え直そうとするところに、四葉が低い姿勢で突っ込んでいく。
「無茶ですっ!」
カーラが叫ぶ中、ライヒがクラウドバスターを発射。狙いはわずかに外れたが、四葉の服の肩を焼く。四葉は肩から煙を上げながら、ライヒの腰に食らいついた。
「うっとうしい、放せ!」
ライヒが振りほどこうとするが、四葉は相手の腰に両腕を回して離さない。ライヒが四葉の背中に強烈な肘打ちを叩き込む。
2発、3発。四葉の腕が緩んだところに、ライヒが四葉のわき腹に膝蹴りを食らわした。四葉は床に転がり、廊下の壁で背中を打った。
「お前のようなひ弱な坊やが、俺に白兵戦を仕掛けようなんざ、100年早いんだよ——いや、100年待つ必要もない。あと数秒でお前の人生は終わりだ」
スプリンクラーの放水でびしょ濡れになった床に手をつき、四葉が顔を上げた時、クラウドバスターの筒先が目の前にあった。
カーラが声を嗄らす。
「待ってください! 話し合いを——」
だが、四葉はライヒに吐き捨てた。
「さっさと撃てよ、女たらしの色ボケ野郎」
「シバさん!」
「いい度胸だ。お望み通りに丸焦げにしてやるよ。火葬の手間が省けるだろう」
ライヒの指がトリガーを引いた。