その7  画面の独白

文字数 493文字

唇が近付いてきた。息がかかる。ついうっとりする。
が、続けて唾が飛んでくる。ああ、いつも通りだ。
ということは、これから人差し指でこねくり回される。
よし、夕飯決まり。指の脂を残して、彼女は去った。

おや、続けてチビちゃんかい。君はかわいいけど、乱暴だからなあ。
あっ、やめてくれー。その指、さっきまで舐めていただろ?
そうだよね、聞こえていないよね。

背中から音が鳴った。
手掌に載せられ、弄ばれる時間が続きそうだな。
音が連発している。こりゃあ、長くなりそうだ。
ブツブツ。クスクス。何書いているんだよ。
チビちゃん、寂しそうだぞ。ちゃんと見てやれよ。
そうだよね、聞こえていないよね。

懐かしい曲が聞こえてきた。
もうっ、と言って指先が触れ、耳介が近付いてきた。
この感じ、久しぶりだな。

おかげで拘束時間は終わり、背中に硬いものが触れた。
視界は遮られ、しばらく休憩だ。
脂だけではなく、埃、微生物なども密閉された。
知っているのかな、結構汚いんだぞ。
そうだよね、聞こえていないよね。

数時間後、彼女の声がする。
あれーっ、私、スマホどこに置いたかな? 

ここに置いたの、貴女でしょ?
そうだよね、聞こえていないよね。

[了]
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